ふと視線を感じ、その方向へ体を向ける。腕組みをして壁に寄りかかっていたシンがもはや恒例となっているアキとカヤナの言い合いを楽しそうに眺めていた。
「シンさん!いたなら言ってください」 「おもしろいから、つい」
シンが緩んでいた口元に手を添え、壁から離れる。アキの隣へ来ると、体を屈めてアキの顔をのぞきこんだ。
「久し振り。アキちゃん」 「久し振り……って言っても、4日しかたってませんよ?」
「そう。4日も!1人で森とか山とか行っちゃうから本当心配だよ。カヤナちゃんがついてるからまだいいものの。……何もなかった?」
いつもの笑顔で話しかけるシンに、アキも笑顔で返そうとする。ぎこちない笑顔にシンが眉を寄せた。
「このタイミングで黙るって事は……。何があったの。言ってごらん?」 「大したことじゃ、ないんですけどね」
「……ふむ。……やっぱ1人で出歩かせるの、よくないな」
シンがあごに手を当て、何かをつぶやく。アキがそれを聞き取れずに、なんですかと聞き返すと、シンはなんでもないと言ってアキの髪を撫でた。
「それにしても、大変だったね」 「はい……ちょっと落ち込みました」 「うんうん。よくがんばったよ。えらい、えらい」
やがてアキの頭を包む手が両手になり、正面でシンがほほ笑む。あやされているのだと気がつくと、アキは暖かい気持ちになった。
「やっぱ、女の子には家にいて欲しいな」 「家にですか?」
「そ。あったかいご飯作って、旦那様がお仕事から帰るのを待つの。で、あなた、お疲れ様。っとか言ってちゅーするのさ」 「ふふ。シンさんらしいですね」 「アキちゃんはどう?こう言うの」 「土掘ったり、石いじりしちゃう女の子ですよ。ちょっと難しそうです」
「まあ、鍛冶師としてがんばってるアキちゃんはすごく輝いてるし、そんな所も好きだから、つい応援しちゃうんだけどね」 「また、そんな言い方して」
呆れて肩をすくめるアキに、シンがへらへらと笑う。
「本当だよ?」 「はい、はい」 「ん〜。俺ってそんなに信用ないのかな〜?」
シンが困った顔をして首をかしげた。大きな体に似合わぬその仕草がやけに可愛く見える。素直に、可愛いですねと口に出すと、シンは全く嬉しそうでない顔をして可愛いと言うのはアキのような女の子に対して使う言葉なのだ、とアキを諭した。
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