「さーってと」
大きく伸びをして声を上げる。アキは怪訝そうな顔でこちらを見た。口出しはしないが、ウキツがこれからしようとしている事が気に入らないのだ。しかしウキツにとって酒は唯一の趣味みたいな物、やめる事はできないしそんな気もない。
「何睨んでんだ」
「睨んでなんかいません」
「じゃ、一緒に来てーのか?」
「何度も言ってますけど、私、次の誕生日がきたってまだ未成年なんですよ」
「だよな。早く二十歳になっちまえばいーのに」
ぽんと頭に手を置くと、非難の気持ちしか込められていなかった視線がわずかに和らいだ。
「飲みませんよ、二十歳になったって」
「なんで?」
「飲まないものは、飲まないんです」
こんなやりとりは初めてではないのに、アキが意固地になる理由はわかっていない。まだ先の話とは言え少し気になっていた。
「そんなんじゃわかんねーって。こっちは、何気に、お前と飲むの……楽しみにしてんだし」
「楽しみに、ですか?」
毒気の抜かれた表情で見上げられ、気まずくなって顔をそらす。アキがくすりと笑ったようだった。
「私は、お酒を飲んでだらしなくなるのが嫌なんです」
「だらしなく?」
「性格ががらっと変わっちゃったり、フラフラになって周りに迷惑をかけたり」
もしかしなくとも後者が自分を示していると言う事はわかる。しかしいちいちそれを気にしていたらせっかくの酒がまずくなってしまうではないか。
「でも、お前がそーなるとは限らねーし。アキみたいなのほど、こー言う息抜きが必要なんだぞ」
なんでですか、とアキが不思議そうな顔をする。酒の力でやや頑固なところが丸くなってくれたり、なかなか弱音を吐かないアキが甘えてきたりなんかしたら万々歳、などと言う想像を慌てて頭から振り払った。
「少しなら」
「ん?」
「少しなら良いと思いますよ。ウキツさんも、お酒を飲んだらいつもより怒りっぽくなくなると言うか、大らかになってくれるから」
「は?んな風に思ってたのか?」
仏頂面で詰め寄ると、ごめんなさいと小さい声が返ってくる。
「ま、別にいーけど」
今の今まで自分も似たような、もとい、自分の方が怒られそうな事を考えていたのだが、余計な事は言わない方がよさそうだ。
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