puppy love

ウキツ×アキ

開店前のチナキの店に潜り込み早一時間。気分も良くなってきた頃、シンが大きな音をたてグラスをテーブルに置いた。

「ウキツ、知ってる〜?」
「何を?」
「我らが王立警備隊の姫、アキちゃんが最近ご機嫌だってこと」
「姫ってなんだよ。ただの専属鍛冶師だっつの」

呆れて口をはさむも、シンはこちらの言うことなど気にも留めていないようだ。

「よ〜く見たら首飾りなんてしてるのさ!」
「首飾り?」
「そ。誰からもらったのか聞いてみたんだけど、内緒です。の一点張り」
「どーせ自分で買ったんだろ?」
「いや、あれは男からのプレゼントだね」

自信たっぷりに言い切られ、ついシンの方を見てしまった。目が合うと、シンがにやりと笑う。

「やっぱり気になるんじゃない」
「あんたが気にさせるような言い方すっから。で、証拠でもあるんか?」
「ううん。でもそう言うのってなんとなくわかるでしょ?」

同意を求めるシンに大きなため息をついてみせた。

「わかんねーよ。紛らわしい事言うなっつーの」
「まあまあ。その首飾りって言うのがさ、なんて説明したらいいかな……」
「見たことあるって。花のだろ」
「え?」
「だから、ちっさい花の飾りがついた……」

そう言ってシンを見ると、シンはぽかんと口をあけたままこちらを見ていた。妙な沈黙が流れる。違ったのかと目を瞬いていると、沈黙を破るように頭上から明るい声が降って来た。ほかでもない、話題に上っていたアキの声だ。

「本当にお昼から飲んでるんですね」
「なんでお前がこんなとこに」
「私はもちろん仕事です」

チナキさんが困ってますよ、と眉を寄せるアキから目をそらそうとし、目線は自然と首飾りへ移った。シンがおかしな顔をした理由がようやくわかり、頭を抱えそうになる。アキの首には確かに細い鎖が光っていたが、服に隠れて飾りまでは確認できないのだ。

「あのな!」

これは成り行きで、たまたま進路妨害している奴らを追っ払って、近くの店の店主がお礼がしたいと言いだして、強引に押し込まれたその店が装身具屋で、手に取ったのが首飾りで、その日ちょうどアキと会う機会があったから渡しただけ、ただそれだけなのだ。立ち上がり息巻いてそう言いそうになる。

「…………帰る!」

目を丸くするアキといやな笑みを浮かべたシンの視線を背中に感じながら、ウキツは大股歩きで店を出るしかなかった。



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