「またマテ酒ですか」
開口一番、アキが非難めいた口調で言う。出かけるために準備をする手を止める気配もない。ウキツは内心ギョッとしながら、もちろんあるに越したことはないが、それだけのために来ているわけではないと少し焦った。
「んなこと、誰が言った」 「冗談です。でも家に五本あったマテ酒が三日でなくなったのはウキツさんが飲んだ からですよ」 「ここにあったって誰も飲むやついないじゃねーか」 「お酒って料理にも使うんだけどなぁ……まあ、もういいです」
呆れたような顔を笑顔に変え、アキはウキツに向き直った。
「で、私、今から採掘に行こうと思っていたんですけど……」 「どこまで行くんだ?」 「ニコクです」 「今から行きゃ日帰りできるな」
ですね、と相槌を打つアキを横目に、ウキツは大きめの袋を持ち上げる。アキが小首を傾げた。
「行くか」 「えっ、ウキツさんもですか?」
ウキツの突飛な提案にアキは驚いたようだったが、嫌な顔はしていない。二人揃って外へ向かおうとすると、賑やかさに興味を持ったのか、普段は留守番役らしい白いペットも後をついて来た。
剣を打つ所は何度か見たことがあるが、土を掘ったり岩を削ったりと言うのはあまりない。見様見真似で岩に槌を当ててみるも、ウキツには全てが同じ灰色に見えた。近くではアキがひょいひょいと袋へ鉱石をしまっていく。ぼうっと眺めていると、こちらを見たアキが途端に顔色を変えた。
「だめ!」
あまり聞くことのない声色に呆気にとられていると、次の瞬間、槌を持ったウキツの右腕はアキによって抱え込まれ、岩にぶつかるすれすれの所で止まっていた。怒っているのかと様子をうかがう。アキは予想と真逆の表情をしていた。
「これ、オリハルコン原石ですよ!しかもこんなに大きい。ウキツさん、すごいです!」
興奮気味のアキがはしゃぎながら顔を寄せてくる。状況を把握し、ウキツはこぶしを握った左手を掲げた。
「よっしゃ!さすが俺だな」 「ふふ。そうですね」
自分で言っておきながら、あまりにもすんなりと肯定されむず痒くなる。
「正直、止められなきゃ叩き割ってたけどな」 「何か言いました?」 「いーや。おい、白いの。俺の腕をおさえつけた時のアキの顔見てたか?お前の主人はおっかねーな」
ウキツの言葉を反復するように、ペットはコロコロと鳴いた。
「う……たしかに強引だったとは思いますけど、コロに変な言葉教えないで下さいよ」 「こいつにわかるかっての」 「わかるから言ってるんです」 「ほら、この顔」 「指差さないで下さい。コロも真似しないの!」 「よーし。腹も減ったし、とっとと帰るぞ」 「ああ、はい、もう」
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