傾いた陽が教室を赤くし始めたころ、タカミはつまらなそうにアキを見つめ、アキは窓の外を見つめていた。
「早く帰ろうよ〜」 「もう少しだけ」
グラウンドではサッカーボールが行ったり来たりしている。アキはそのルールをよく知らなかったが、試合を観に来てほしいと言った彼が確かサッカー部だった。
「あれが好みなの?」 「あれ、って……物じゃないんだから」
呆れた顔でタカミの方を見るが、無表情でいるのがかえって不機嫌さを強調している。
「わかった。帰ろう」
席を立ちあがろうとしないタカミに手を差し伸べる。タカミは手を取らずにそっぽを向くと、苦々しそうに窓の外を睨みつけた。
「怒ってるの?」 「別に。アキがああ言うのが良いなら仕方ないよね」 「私そんなこと言ってないよ?」
タカミはアキの言う事を聞いていながらも、全く信用していないと言う様子だ。だんまりを決め込まれ、アキは眉を寄せた。
「タカミだって、女の子から呼び出されたりしてるじゃない。告白……されたりもするんでしょ」
口にしてすぐ、自分は何を言っているのだろうと思ったが、口にしてしまったものは仕方がない。どれほど効果があるかわからないが、こう言っておくしかなかった。
「今の忘れて」
ワンテンポ遅れ、え、と言う声とともにタカミが勢いよく席を立ち、椅子の下がる音が響く。
「アキ、知ってたの?」
忘れてと言ったばかりなのに、とアキが力を落としていると、タカミはぶつぶつと呟きよくは聞こえないがああだこうだと心の声が口から漏れてしまっているようだ。
「って言うか、僕のこと気にしてくれてたの?」
ようやく一言聞きとれたと思うと、その場がしんとなった。
「……ほとんど一緒にいるんだから、いなかったら気になるに決まってるじゃ」
向けられる眼差しを避けながら返事を返せば、さっきはアキの手を避けたはずのタカミがアキの手を取っていた。
「僕はアキしか興味ないから、安心してよ」 「それ、どう言うこと?」 「つまりそう言うこと」
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