『アキ〜!助けて〜!』
甲高い鳴き声に、ちらりと後ろを振り返る。タカミの手中におさまったコロが手足をばたつかせながら喚いていた。おそらくタカミを怖がっての事だろうが、いじめられているわけでもないようだし、少しすれば大人しくなるだろうと前に向き直った。
「うるさいな。痛い目見たいの?……って、痛」
気にしないようにしようとつとめてみても、やはりどうしても気になる。タカミは動物の相手なんてしたことがなさそうだから、扱い方がわからず悪意なしにコロの嫌がる事をしてしまいそうだ。アキがそんな事を考えていると、まもなくして、タカミが剣を打つアキの元へやってきた。
「ねえ。喧嘩売られてるみたいなんだけど、これ何て言ってるの?」
アキじゃわかんないんだっけ?と挑発的に言い、タカミはくすくすと笑う。
「……タカミだってわからないでしょ」
身体を振り向かせると、アキを少し上から見下ろすタカミと、タカミに耳をつままれユラユラ揺れるコロが目に入った。
「ちょっと!危ないことしないで」
咄嗟に手を出しコロを取り返そうとするが、素早い動作で避けられてしまう。
「落とすなんてヘマしないよ」 「そんな事言ったって、火、使ってるし、コロも嫌がってるし……」 「どうして嫌がってると思うの?わかんないんでしょ?」 「わからないけど、……わかるのよ」
タカミの瞳は見ないように視線を下げ言い返していると、不意にタカミの腕に引っかき傷のような痕を見つけた。いくつかできたそれはまだ新しい。
「もう。無理矢理抱こうとするから」
そう呟き、コロに向けて伸ばしていた手をタカミへ向ける。アキがタカミの冷えた腕に触れるのを、タカミは大人しく見ていた。
「何さ」 「消毒するの。こっち来て」
薬箱を取り出し、消毒液をしみこませたガーゼで傷痕をなぞる。タカミが顔を歪め、アキの後ろに隠れていたコロが顔をのぞかせ舌を出した。
「……消毒が痛い」 「子供みたいな事言わないでよ……おとなしくしてて」
アキは自分でそう言ってから、目の前の人物に一番相応しくない単語を言ったと思って顔をあげた。タカミと目が合う。
「何?」 「いや、なんか……ごめんね?」 「笑いながら言われてもさっぱりなんだけど」 「一応、コロの保護者として、ね。はい、他に痛むところは?」
たずねると、もういい、とタカミが腕を引っ込めた。怪しんだアキが手当したのと逆の腕を引っ張る。タカミの腕には同じような引っかき傷が並んでいた。
「そんな気がしたのよね」 「この程度で騒ぐのはアキくらいだよ」 「どういたしまして」 「褒めてないし」 「はいはい」
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