問うも愚か
/歌うようにあなたを呼ぶわたしはなに

ルクティアとガイナタ

暫時休息。疲れた体には嬉しい知らせでも、提供された場がティアにとって嬉しいものではなかった。一度はこの屋敷に侵入し、自分の意志ではないが、結果として主の息子を連れ去ったのだ。仕方のないことと思っても、居心地が悪く落ち着かなかった。はじめはアニスやジェイドと展示された美術品を見ていたが、この二人がなかなか曲者で、ここがキムラスカの総本山と知りながら剣を向けられてもおかしくないような発言をする。これでは余計な気疲れをするだけ、とその場を離れた。どこか落ち着ける場所はないだろうか、と、日当たりの良い中庭に出る。奥にはやや小さめの建物が見えた。小さいと言っても、4人家族が住むような建物と比べ、という意味だが。確かあれはルークの私室だったと思う。姿を見ていないのは、あの中にいるからだろうか。扉の前まで向かい、片手を持ち上げる。しかし、呼び出すのもなんだかと思い手を止める。近くにあった椅子に腰をかけ、よく手入れのされた花壇を眺めた。しばらくすると、楽しげに話す男女の会話が耳に入ってくる。距離が縮まり、お互いの顔を認識したころ、女性の方が落ち着いた声でティアの名を呼んだ。話声の主は、ナタリアとガイだった。

「こんな所にいましたのね。」
「ええ。日差しが気持よくて、つい。」

二人が階段を上り、ティアのいるテーブルに集まる。

「あ、ティア、この席は」

ガイが何か言おうとするのを、ナタリアが手で制し遮った。

「ガイ。かまいませんわ。」

それなら、と言ってガイは踵を返し、ルークの部屋に入っていく。

「何かまずいことでもしたかしら……」

わけもわからず戸惑うティアに、ナタリアはなんでもないと言い正面の椅子に腰かける。

「その席が、私がこの屋敷を訪れるときの、私の特等席でしたの。」
「まあ……それじゃ、ここに座っては」

あわててティアが腰を浮かせると、ナタリアはティアの両肩に手を置き座り直させた。

「構わないと言っているでしょう。特に決められたものではありませんし。」

畏縮するティアをよそに、ナタリアは続ける。

「それよりもティア。ここからは花も銅像も、よく見渡せるでしょう。ルークが中央で稽古をするときなども、いつもここから見ていたんですのよ。」
「……そうなの。ここで。」

ナタリアの視線の先へ、ティアも目を向ける。確かに庭一面が見渡せ、心地よいと思わせる空間だ。彼女たちはここで、長い時間を共に過ごしたのだ。たくさんの思い出があるに違いない。ナタリアが、近くにいるメイドに声をかけ、お茶を用意するように言う。

「あ、私の分は、いいのよ。」
「あら、どうしてですの?もしかして、ルークに用があっていらしたの?」
「いえ、そういう訳でもないのだけど……」
「わかりましたわ。でしたら、中で話してくれば良いではありませんの。」
「え、違うの、ナタリア、」

強引に手をひかれ、部屋に入れられる。ルークとガイが驚いた顔をしてこちらをみたので、ティアがたじろぐと、先導を切って部屋に入ったナタリアが、ガイの名を呼んだ。

「お茶でも飲みながら話しましょう。」
「ああ、かまわないけど。」

あっという間の出来事にきょとんとしたまま、足早に部屋を出て行くナタリアとガイを見送る。狭まる扉の隙間から、二人の談笑する声と笑顔が見え消えた。

「何か用か?」
「違うのだけど、なんだか強引に……。」
「はあ?」
「まあいいわ。そう言えば、ルーク」

彼の名を呼び、ふと、自分がルークの名を呼ぶときのそれと、ナタリアのそれが似ていることに気がついた。穏やかさと高揚感が入り混じったような、これは。

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