散策を終え自分たちの船へと戻る。ナタリアよりも先に戻っている人物がいるらしく、甲板に人影が見えた。眩しくて誰がいるのか判別できなかったので、手のひらで太陽の光をさえぎり確認をする。こちらに気付いたその男は、口元で笑みを作った。階段から頭だけをひょっこりと出し辺りを見回す。先客はその様子を見て笑いをこぼした後、咳払いをし澄ました顔でおかえりと言った。
「やっぱりガイでしたの。」
ナタリアも甲板へ上がり、ちょうど良い段差を見つけ腰掛ける。ガイは甲板に足を投げ出していたが、ナタリアが通るときに片足を引っ込めた。さけると言うよりは、邪魔になるのでよけたと言う感じだ。
「こんなところで何を?」
「眺めが良いんでね。」
眺め、と言われナタリアも街へ目をやる。確かに、グランコクマの街並みは随所に趣向が凝らされており、見るものを楽しませる。と、同時に目に飛び込んできたのは、客寄せをするナタリアと同い年くらいの女性達の姿である。新しくできた店だろうか、人だかりができていた。
「見るのは好きなんですものね。」
「何を?」
「美人をです。」
「否定はしないが……その軽蔑の眼差しはなんだい?」
「軽蔑なんてしていませんわ。」
「……あ。嫌だった?」
「いいえ。私には関係ありませんし。」
「大有りだろ。……かみ合ってないな。」
ガイが顎に手をやり、考え込む。ナタリアがそれを見ていると、何か閃いたらしいガイと目があった。
「俺が見てたのはあっちじゃなくて、キミだよ。」
ナタリアが目を白黒させている間に、ガイは続けて言う。
「きれいで、目の保養になるから。」
「ま……また真面目な顔で、そんな事を言って!そんな風だから、女性に誤解されるんですわ。」
「色んな表情をするから、飽きないしね。」
「人の話を聞いていますの?」
「うん?」
頬が赤らみ、混乱するナタリアをよそに、ガイは平然としている。どうして良いかわからず、ガイの目の前へ行き胸倉を掴もうと飛びついてみる。こうすれば慌てて後ずさるだろうと思っていたのに、ガイは驚くだけで、その体勢で固まっていた。
「逃げませんの?」
「に、逃げたいのと、触れたいのが、葛藤、して。」
「あなた、何なんですの。私はどうすれば良いんですの。」
「キミに、任せる、よ。」
お互いにその体勢のまま動けずにいると、じゃあ離れろ、と何重かに重なった声が聞こえ下を見る。買出しから戻りアルビオールに乗り込もうとしていた仲間達が、こちらを見てああだこうだと声を上げていた。
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