言い換えると
/る、まで発音できない

ガイ×ナタリア

「ガイ、あなたは私のことをどう思っていますの?」
「……うん、あー……もう少し、質問の幅を狭めてもらえる?」
「では、愛しているか、愛していないかで答えてください」

彼女の突拍子の無い発言とももう長い付き合いなのでそうそう驚く事などないと思っていたが。皆が集まる食卓でそう言われた時には運んでいた料理皿を危うく落とすところだった。ついさっきまで騒がしかった室内が、しんと静まり返っている。皆が唖然とした表情で自分たちに注目しているのを容易に想像できた。ガイもまた、傍観者の立場であったら何と言うべきか、とりあえずはこの場でする会話ではないと説き伏せることを選ぶのが当然だと思っていただろう。考え抜いた挙句、自分がこんな発言をするとは夢にも思わずに。

「…………愛してるよ」

周辺の空気がさらに冷えたのを体で感じながら、皿を置き足早に他の料理を受け取りに行く。自分としてはそのまま流してほしい話題だったのだが、調理場でおたまを片手にわなわなと震えるアニスを見ると、どうもそうはさせてもらえそうにない。

「ほんっっっっきで張り倒したいんですけど!」

きぃんと高い声が頭に響き、アニスが今にも飛びついてきそうな勢いでガイに迫った。

「普通、こんな公衆の面前で愛をささやきあったりしないでしょ!?ナタリアはちょっと抜けてるからしょうがないけど、それをガイが止めなくてどうすんの!あんたらそのうち独り身団体の標的になるよ!?」
「独り身団体とはどんな団体ですの?」
「恋人がいない人たちの集まりですよ。なかでも恋人と別れたばかりで傷心状態の団員が強硬派で、彼らは仲の良い恋人たちを見ると引き離して二度と会えないように……」

どっと疲れるのを感じる。皆がおかまいなしに喋るので一体どれから対処していいものか。

「これ、本当に俺が悪いのか?」

違うだろうと、思わず嘆く。あの場で答えなければ、少しでもナタリアを傷つけることになったかもしれないし、何よりあんな風に一心に見つめられて、ガイにはどうしようもなかったのだ。

「ガイ、どうしましょう。独り身団体は夜道を狙うんですって」
「大丈夫だよ。キミに手出しはさせないから」
「弓を使って良いなら私でも対処できるのですわ。でも相手は民間人ですし……」

アニスの目が、いよいよ珍獣を見るような目つきになってきた。

「……全然反省してないし。」
どうしてそんなに落胆していますの?……あ、忘れるところでした。アニス、言われたとおりやったのですから、今度魚を使ったアレンジ料理の仕方を教えてくださいね」
「まさか、本気で言うとは思ってなかったよ……信じらんない。ガイは常識人だと思ってたのに。ナタリアのこととなるとネジが外れるのも薄々感じてたけど」

もしかしなくとも

「まんまと罠にはめられたのか……」

肝心の彼女までも共謀していたとは。しかし、その理由がまた怒るに怒れない内容であって、

「あなたがちゃんと答えてくれて、嬉しかったですわ」

そう言って微笑む彼女を見ると、そもそもガイに彼女を怒る事などできそうもなく。

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