言い換えると
/悲しみは癒してあげたい

ガイ×ナタリア

「ナタリア、大丈夫か?いくら苛立っていたとはいえ突き飛ばすなんて」
「平気ですわ。こう障気が充満していてはおもしろくないでしょう。民の不安を解消できないこちらにも問題はあるのです。」

言いながら振り返ったナタリアは、ガイの不興顔を見て目を丸くした。

「怒っていますの?珍しいですわね。」
「女性に手を上げるって言うのがな。」
「まったくですわ。けれど、そう言う認識はしていなかったのでしょうね。」

少しも気に留めない様子で、ナタリアが微笑む。ガイとしては少しも面白くなかった。突き飛ばされて傷つかない人間などいるだろうか。自分は鍛えているから痛くも痒くもないとナタリアは言ったが、もちろんガイはそんな表面上の話をしているのではない。彼女が外傷的な痛みへの耐性を持っているのも、逆に問題であると感じた。ナタリアは、自分より王女としての立場を優先するきらいがある。特殊な環境で育ち、そうあるべきとされてきたのだから仕方が無いと言われればそれまでだが、そんな状況でもナタリアは、擦れずに、感情豊かで、人間味溢れていた。浮いた感情も沈んだ感情も、一目見れば伝わってくるようなところがあり、それこそがガイを安心させた。痛みに慣れ、助けを求めないようにはなって欲しくなかった。ふと、投げ出された道具袋を見つけ持ち上げる。ナタリアは目をぱちくりさせてから、自分の手元を見る。

「何か忘れていると思ったら、それは私の道具袋ですわね。」

肩をすくめ、ガイの方へ両手を差し出す。その手を制し、持つよと言って体をひるがえすと、ナタリアはいつもの調子でありがとうと言った。

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