町はずれに住む依頼主へ納品を終え、家へ帰ろうとしている時だった。アキの前を他の通行人と比べても長身で目をひく男性二人が歩いている。一方は流れるような金髪で、動きにくそうにも見える緩い布をまとう程度の、露出の多い格好をしている。もう一方は短い黒髪で、衣服は足元から首まで覆い隠されたシンプルなものだ。この対照的な姿には見覚えがある。アキは声をかけようと足を速めるが、二人の歩幅が大きいのと、他の通行人に道をふさがれ思うように前へ進むことができない。やっとひらけた通りに出る頃には、アキは二人の姿を見失っていた。
「先に行っちゃったかな……」
ぽつりとつぶやくアキに、横から声がかかる。
「あれ、アキちゃん?」 「シンさん!」
アキの表情がパッと明るくなるのを見て、シンが一瞬驚いた表情をしてから優しく笑った。
「嬉しいな〜今の反応」 「え?あ、前を歩いているのが見えていたので……カスガさんもいませんでした?」 「いるよ」
シンはアキに身体を向けたまま、後ろを指さす。見れば、カスガらしき人物と見知らぬ女性が何やら話をしているようだった。
「お知り合いですか?」
「いや。あのお嬢さんが落とした荷物拾うのを手伝ってたらさ、カスガが自分が持とう。とか言いだしてさ〜」
俺も持とうと思ってたんだよ?と身ぶり手ぶりでうったえるシンに、アキはくすくすと笑う。
「いつも良いとこもってくんだよな〜ま、おかげでアキちゃんに会えたわけだから、良しとするか」
シンはそう言って、首を傾げるアキの肩を抱き寄せた。
「あ、あの……」
頬を赤くしてうろたえるアキを見て、シンは満足げに微笑む。そうこうしているうちに、役目を終えたらしいカスガがこちらへ歩いてきていた。
「こ、こんにちは」 「ああ」 「どう、カスガ?何ちゃんだって?」
カスガは質問の意味を一瞬考え、困った様子で答える。
「……聞いていない」 「なんだって!?まったく、詰めが甘いな〜」 「そう言うつもりで手を貸したわけでは……」 「勿体無いこと言うねえ。あの子、カスガ見てポーッとしてたよ?」
それを聞き、アキは先ほど見た女性の姿を頭に思い浮かべた。アキより年上で、立ち振る舞いも大人っぽく、整った顔立ちをしている。つまり、アキでも見惚れるような美しい女性だったのだ。
「……何の話だ」
シンとの会話を打ち切ったカスガがアキの方を見るが、アキは咄嗟に視線をそらした。その様子が不自然だったのか、カスガはそのまま不審そうにアキを見つめている。
「アキ・ミヤズ。体調が悪いのか?」 「そんな事ないですよ」 「なに?アキちゃん、熱でもあるの?」 「ないです!」
額にシンの手の平が触れ、アキは顔を真っ赤にして否定した。
「そう?心配だからちゃんとお家まで連れて行ってあげなきゃ」 「そうだな」
いつの間にか、アキはシンとカスガの間に挟まれている。断ってもついてきそうなので何も言わなかったが、アキは二人の間で居心地の悪さを感じていた。王立警備隊の隊員で、明るく女性にも優しいシンが人気と言うのは知っていたが、シンだけでなくカスガにもその素質があるのだと言う事がわかったからだ。顔を俯かせていると、カスガに名前を呼ばれる。
「はい?」 「やはり気分が悪いのではないか?自分が背中を貸そう」 「え!?い、いいです!大丈夫です!」 「そうか?」 「カスガ、違うでしょ〜。女の子はやっぱり、お姫様だっこがいいんだよね?」 「……そうなのか」
シンの言葉に、カスガがなるほど、と言う顔をしたので、アキは慌てて二人から離れようと後ずさりした。
「でも、カスガにアキちゃんは触らせないよ?ね、アキちゃんこっちおいで〜」 「どうしてそうなる?」
勝手に話を進める二人に、アキはたまらず口をはさんだ。
「わ、私、自分で歩けますから!」
アキの必死な様子に、シンはこらえきれず大声で笑いだし、カスガは不思議そうな顔で二人を見比べていた。
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