依頼書をパラパラとめくりながら、アキは一人頭を悩ませていた。優先すべき依頼がいくつかあったが、どれも材料が足りず、このままでは作ることができない。採取に出れば済むことだが、アキはそれをためらっていた。
「何か言いたそうな顔をしているな?」 「そ、そうですか?」
アキはびくりとして、依頼書から目を離す。見上げたサナトの表情は相変わらずの無表情で、何を考えているのかわからなかった。
「やっぱりお願いしづらいな……」
アキが小さくつぶやく。他の親衛隊の隊員たちとは少しずつ打ち解けてきたこともあり、同じ空間にいてもこんなに緊張する事はないが、サナトを前にするとどうしても構えてしまうのだ。
「言いたいことがあるなら言わんか」 「……じゃあ、採取に出かけたいんですが……」
うかがうようにサナトを見上げると、少しの沈黙の後、サナトが不審そうな表情で言った。
「早く準備せんか」 「は、はい!」
一通り道具を用意して、家の外で待っているサナトの元へ向かう。
「サナトさんが馬に乗る所、想像できないな……汚れるの嫌いそうだし」
意を決して扉を開く。目の前に現れた光景にアキは言葉を詰まらせた。
「そなたはよく惚けた顔をするな。日が暮れてしまうぞ」
サナトの言葉に、慌てて馬の傍へ行く。艶やかな毛並みに目を奪われ、つい片手が伸びていた。触れた時のさらりとした感触に驚いて手を引っ込める。それはとても大人しく、毛色は真白で、まるで王族で愛用されているような貫禄のある馬だった。アキが戸惑っていると、サナトはアキを先に馬に乗せ、自分もその後ろに乗り手綱を握った。
「あの、ありがとうございます」
街道をしばらく進んだところで、アキが体を気持ち振り向かせ言う。サナトは答えなかったが、馬の速さがわずかにゆるみ、アキに何か言おうとしているようだった。
「あれしきの事を伝えるのに躊躇していたのか?」
「え?はい、まあ。……サナトさんって、親衛隊の中でも一番偉い立場で、あまり監視にも来られないので、慣れないと言うか」 「……細々とした仕事が多い。それほど自由が利かないのだ」 「そっか。サナトさんって、王様の片腕って感じですもんね」
アキは前に向き直る。沈黙は流れていたが、居心地の悪さは大分和らいでいた。
「今日はお城を離れて平気なんですか?」 「そなたの関知することではなかろう」 「……そ、そうなんですけどね」
ちらりと後ろを仰ぎ見ると、サナトが可笑しそうに口の端を上げる。アキは驚いて目を見開いた。
「日ごろ陛下のご意向を汲み取ろうとしているせいもあるが……それにしてもそなたはわかりやすいな」 「私がですか?」
アキがわずかに顔をしかめてから、ハッとした。こう表情が変わってしまっては、サナトが言うことも頷ける。アキは自分の感情が表に出やすいのを、なんとかできないものかと考え込んだ。
「まあ、今日のように息を抜くのも悪くない」
サナトの呟きに、思わず思案するのを止める。アキは案の定振り返ってしまってから先の言葉を思い返したが、サナトと目が合うと隠すでもなく微笑みかけた。
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