Message for you

何がどうなっているのか、頭は真白で上手く働かず、混乱するばかりだ。まわされた腕の温かさはアキが知っているものだったし、降ってくる声は心を許してくれた後でもごくたまにしか聞く事のできなかった、アキをどきりとさせたり、時には落ち着かせたりしたそれだった。しかしそれを理解するよりもずっと前に、身体は心地よい声を受け止め、アキの目から止めどなく涙をあふれさせている。アキはそのせいで余計に混乱し、思うように息ができなくなった。両手で顔を覆い嗚咽を漏らす。不意に背中にあったぬくもりがアキから離れた。咄嗟に振り返るアキを何かが遮る。

顔を上げると、アキを見る穏やかな視線とぶつかった。ほとんど同時に、ウキツはアキを抱え込み、アキはウキツに抱きついていた。大きな掌がアキの背をポンポンとなだめるように動く。アキはウキツの胸に顔を押しつけたまま黙って従った。やっと気持ちが落ち着いてきたと思って口を開こうとする。途端に感情がどっと押し寄せてきて胸が苦しくなった。声が出せない。それを何度も繰り返す間、ウキツはアキを力強く包み込んでいた。わかってる、と言ってくれているような気がして、アキは無理に喋ろうとするのをやめる。ようやく顔を上げられるようになり、笑顔を作ると、ウキツはアキのこめかみに唇を寄せ、再びぎゅっと抱きなおした。

「大丈夫か」
「うん」

くぐもった声を出すと、ふわりと頭をなでられる。胸がじわと熱くなり、また瞳が潤んだ。

「もう、消えたりしねーから。ずっとこっちにいられる」
「本当に?」
「ああ。だから、……んな必死になって掴まなくても大丈夫だ」

あやすような口調に、おそるおそるウキツの服から手を離す。ゆっくりと見上げてもウキツは変わらずそこに立っていた。な、と言って笑いかけてくる。

「どうしてここにいるの?戻ってこれたの?」
「ま、フツー気になるよな。オレもよくわかんねーんだけどさ……確かに一度は死んだわけだし」

頭をかくウキツをぼんやりと眺めながら、はっとした。

「ケガは……怪我はしてない?」
「平気だよ。ありがとな」

ふっと口元を緩めるウキツに、アキは首を傾げる。

「そいや、よくお前に手当てしてもらってたなーって思ってさ」
「……そうでしたか?」
「そーだよ。で……冷えてきたし、移動すっか?家ん中でも話はできるしな。ここ、ヨロハだろ?」

辺りを見回しながら言うウキツに、あ、と大きな声をあげる。ウキツが目を瞬いた。

「どした?」
「お、おじいちゃんにも知らせないと!ウキツが帰ってきたって!このお墓もおじいちゃんが作ってくれたの」

言うなりウキツの腕を引いて駆け出そうとする。妙なだるさが身体をおそい、アキは倒れそうになるのをかろうじてとどまった。

「あんだけ泣きゃ、体力消耗すんだろ。ほら、行くぞ」

行くぞ、と、ずっとかけてもらいたかった言葉がまた降ってくる。アキは今度は微笑まずにはいられなかった。逆に引っ張られる形で歩き出すと、ウキツがふと足を止める。小さなお墓の前へ戻り、しゃがんで添えられた手紙に手を伸ばした。

「これはオレがもらっとく。いーよな?」
「……うん!」



・ CLAP