寄り添い合う心

膝を抱えながら灰色の地面を見つめる。いつもそばにいるカヤナは別の牢へ入れられていた。学者と話してから、カヤナはずっと何か考え込んでいるように感じる。アキもそれは同じだったけれど、考えているのは別の事と言う気がした。アキの頭にあるのは門番の話だ。

(ウキツさん、そんな事言ってなかった。そんな感じもしなかった)

学者の話はアキにとって衝撃で、とても信じられるものではない。けれども、ヤスナで神話研究の頂点にいる人がそう言っている。当然の知識と言う風だった。

「カヤナ」

不安になって、壁の向こう側にいるカヤナへ声をかける。少しして何だ、と言う返事が返ってきた。

「昼間の、門番の話……覚えてる?」
「ああ」
「ウキツさんも、門番……だよね?」
「そう言っていたな。……ああ、その話も気になるな」
「うん……」

戻りたいと言う気持ちがおさえられなくなるから、と、向こうの事ばかり考えるのは止していたのに、今はそればかりを考えてしまう。ふと、いつかの光景がアキの頭を支配した。あれは、ウキツが姿を消す前の晩の出来事だ。

ウキツが姿を消す前、最後にウキツに会ったのはアキだった。苛立つウキツを前に、アキはカヤナのように声をかける事ができずにその場を去ろうとする。けれど、呼びとめられて振り返った時、ひどく思い詰めた視線とぶつかってアキはその場から動けなくなった。縋るように腕をまわされた時、この人は不安定に弱っているのだ、と、それはわかったのに、アキはただされるがままになっているだけで何もできない。

「ウキツさんがいなくなっちゃった時……あったじゃない?」
「ああ」
「今日の話と関係あるのかもしれないね」
「ああ。……おそらくそうなんだろう」

あれから、アキがヤスナへつれてこられるまで時間はあまりなかった。詳しい話は聞けていない。けれど、漠然と今日聞いた話が関係しているのではないかと言う気がしていた。

「大丈夫かな……」
「何が?」
「……ウキツさん」

しばらく沈黙が続いて、カヤナが場の空気を変えるように、ふふ、と笑う。

「どうしたの?」

目を丸くして問いかけると、カヤナは穏やかな口調になった。

「……まさかあいつも、アキに心配されているとは夢にも思わんだろうと思ってな」
「え?」
「心配されるのは、私たちの方だと思うぞ?」
「あ……それもそうよね。でも、気になるんだもの。しょうがないじゃない」
「悪いなんて言ってないだろ?」
「うん。……けど、なんだか慣れてきちゃってるのよね。こっちでの暮らしや、牢屋に入れられたりすること。だから、今はそっちの方が気になるの」
「わかったわかった」

そう言いながら、カヤナが笑いをこらえているのが壁越しでも分かる。

「ニヤけてるでしょ?」
「そう思うか?」
「いいわよ、もう」

肩を落としてため息をつく。少しは気が楽になった気がしたけれど、やっぱり考えてしまう。

「……会いたいな」

小さく漏れた呟きに、壁の向こうからの返事はなかった。



・ CLAP