Love Letter Box

「おっ。ハヤノからか?」

ハヤノとは再会して以来何度か手紙のやりとりをしていた。今回もそうだと思い封を切ろうとすると、アキがウキツの腕を引いてそれを止める。持っていた荷物の重みも重なり体勢をくずしかけた。

「どした?」
「それ、ハヤノさんじゃなくて私から」

こころなしか赤く染まった頬を見て、なんだかウキツまでどぎまぎしてしまう。受け取った手紙はポケットに押し込み後で読むことに決めると、再び家への道を歩き出した。狭い通りにかかり、団体とすれ違ったせいでアキとの距離が開く。振り返ると、離れた場所にアキの姿を見止めた。何者かと話をしているように見える。

「っと、ケガはありませんか?綺麗なお姉サン」

ふざけた台詞に一瞬耳を疑った。アキはと言えば、驚いて目を見張っているだけだ。

「もしかして、この辺の人?よかったらこの国の近況教えてくれない?お茶でも飲みながら」
「あんた、良い度胸してんな」

苛立ちを微塵も隠さず男の肩に手を置く。おや、と軽い調子で言って振り返った男の顔を見るなり、ウキツも相手も悲鳴に似た声を上げた。

「ウキツ!?」
「お、お、お前、シンか!?」
「……って事はこのべっぴんさんはウキツの彼女!?」
「今はそれより驚く事があるだろーが!つーかそれ、アキだぞ。彼女じゃなくて、嫁だし」



「アキちゃん、あんなに綺麗になっちゃって……ま〜磨けば光るって感じてたけど。ウキツなんかに引っかかっちゃうなんて〜」

横ではすっかり酔ったシンがうわ言のように呟いている。詳しい話はまだ聞いていないが、ひと先ずは再会を祝してチナキの店で祝杯をあげていたのだ。アキは家の事があるから、とシンに必ずうちにも来るよう念を押してそのまま家に帰った。

「今日はとんでもなく懐かしい客が来たねえ。シンもそうだけど、ウキツも最近めっきりじゃないか」
「悪ぃな」
「ま、アキちゃんとは上手くやってるみたいだし、いいさね。今度はアキちゃんも連れておいで」
「おう。言っとく」

チナキが席を立つのを見送り、なんとなしにポケットへ手を突っ込む。くしゃりと音がして、引きだしたのは昼間アキに渡された手紙だった。



「おかえりなさい」

ちょうど子供を寝かしつけた所だったらしい。アキが寝台から上体を起こそうとする所に、ウキツもどさりと滑り込んだ。

「ちょっと!」

しぃ、と唇に指を立てるとアキが口をつぐむ。いくら広い寝台と言っても、子供二人に大人二人がのれば当然窮屈だ。

「返事」
「あ。手紙、読んでくれた?」
「ああ。……で、その……なんだ。何人増えようが、オレは、子供もお前の事も、変わらず守っていくから。安心しろ。んで、こっちの方こそ、これからもよろしく」
「はい」

アキが神妙そうに言い、ウキツの胸に顔を寄せたと思うとくすりと笑みをこぼした。

「……何?」
「口で言いにくいなら手紙をくれたらいいのに」
「後に残る方が恥ずかしいっつの。お前が覚えてれば問題ねーだろ?」
「うん」

頷くアキの髪に指を通し、頭を撫でる。しばらくそうしていると、奥の方で布団のふくらみがごそごそと動くのに気がついた。次の瞬間、現われたのは二つの頭だ。咄嗟にアキをかばう。二つの頭はそのまま布団から這い出ると、楽しそうに声を上げた。

「覚えた!」
「おぼえたー!」
「ね、寝かしたんじゃなかったのかよ!?」
「そのつもりだったんだけど……」

部屋を飛び出してからも、余所で喚く声が聞こえてくる。

「ガキはとっとと寝ろ!」
「ウキツ、落ち着いて。明日になったらきっと忘れてるから」
「ほんとーだろーな?」
「うん……多分」



・ CLAP