雨の随(まにま)に

再びヤカミで暮らすようになってしばらく。ウキツはよく顔を出してくれるけれど、警備隊の仕事で忙しくしているようだった。何よりクガミ王が城を空ける機会が増えたため、それに同行して何日も帰らないなんて所が前とは違っている。アキもアキで、素材探しに依頼にとそれなりに充実した日々をおくっていた。だからこそ、お弁当を持ってどこか行きたいですね、なんてウキツが面倒くさがりそうなお願いもすんなりと聞き入れられたのだと思う。

「でもま、仕方ないな」
「このお天気じゃ、外でお昼って感じじゃないものね」

アキが警備隊の宿舎についてから雨は一層強くなり、今は食堂で向い合せに話をしている所だった。

「アキ!」

弾んだ声で名前を呼ばれる。戻ってからと言うものの、ミトシは前以上に心を許してくれているようで、こうして抱きつかれるのが恒例になっていた。

「……っと、お前仕事どーした?」
「黒き翼、剣のけいこ中。休憩して良いって」
「なるほどねー」

ウキツが苦笑いする。アキはミトシの腕をやんわりとほどくと、手元にあった札に目をやった。

「あ!ミトシ君、手に持ってるそれって……ヤスナの?」
「うん。とらんぷ、って言う」
「やっぱり。私も向こうで教えてもらったんだ。この札で色々遊べるんだよね」
「そう。今日はこれで勝負」

興味無さそうにしていたウキツが、ミトシに勝負を挑まれ目を丸くする。口の端をあげミトシを見返した。

「とーぜん、何か賭けるんだろーな?」
「うん。あれ」

ミトシが指をさした方向にあるのはアキの持ってきたお弁当だ。

「ミトシ君、あれは……」
「わかった。んじゃ、お前が負けたらオレの言うこと一つ聞けよ?」
「…………やだ」

結局、雨は止むどころか勢いを増し、時間よりも早く城門を閉じると言う措置が取られた。警備隊の宿舎はいくつも空き部屋があるからと言うオウバの好意に甘え、アキは教えられた部屋へ向かっている。

「さっきは」
「んー?」
「ウキツが勝って、良かったな……なんて。その、ウキツと食べたくて作ったものだし」
「……おう。負けるわけねーだろ!」

自信たっぷりの言い方に、笑みをこぼす。

「ところで、一つ言うこと聞くって、どんなこと言ったの?」
「しまった!言ってくんの忘れた……ま、どーせ毎日顔合わせるし、今度でいーか」
「何を言うつもりだったの?」
「ちょーど良い機会だからさ、無闇にくっつくな!って……・あ、いや、なんでもねー」

首を傾げていると、早足になったウキツがアキを置いて先へ進み、少し先で声をあげた。

「お前の部屋、ここ!」
「う、うん」
「じゃーな」

強引に部屋に押し込まれ、背後でバタンと扉が閉まる。どうしてウキツの態度が急変したのかと戸惑いながら部屋の奥へ進んでいると、ふいに強烈な違和感を覚え顔を上げた。アキを取り囲む豪華な装飾の数々に頭が真っ白になる。

「ウキツ!ま、……待って!」

慌てて部屋を飛び出すと、自室へ帰ろうとするウキツを捕まえた。呼吸を整えている間に、どうしたのかとウキツが聞いてくる。部屋の扉を指で示し、二人して再び部屋に戻った。

「なんだ?この部屋は……」
「私の家の1階と2階を足したよりずっと広いです!」
「警備隊の部屋よりでけーな。ま、良かったじゃねーか」
「良くないっ」
「なんで?」

部屋のいたる所に高価そうな美術品が並べられているし、ふと手を伸ばした腰掛けの絹ような触り心地にアキは畏縮した。

「落ち着けないです……」
「そーか?」
「一緒にいて下さい」

しばらく待っても返事が返ってこない。助けを求めるような目でウキツを見ると、ウキツが怒ったような声をあげた。

「…………はあ!?」
「ダメですか……?」
「ダメっつーか、や、無理!こ、こんなとこおやっさんとかクラトに見つかってみろ。めんどくせー事になるぞ……」
「大丈夫。隊長さんや皆には私からお願いしたって言うから」
「それだけはすんな、絶対。事を広めるな」

賛成してくれないウキツに困りきって肩を落とす。

「モルトカでは一緒に暮らしてたじゃない!」
「あれは緊急事態だ!付き合ってるっつーわけでもなかったし……」

これが最後と覚悟を決め、ウキツを見上げた。

「……どうしても、一緒にいてくれないの……?」



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