半専属鍛冶師

ほのかに懐かしさを感じながら、陽に照らされた廊下を歩く。城を訪れるのは随分と久し振りだった。食堂にたどりつくと、席に着いていた警備隊の面々が一斉にこちらを見る。真っ先に立ち上がったのはミトシだ。のんびりとした印象のミトシがパタパタと音をたてて駆け寄る様子に目を丸くしていると、ぽふ、と柔らかくアキに抱きついた。驚いたのは他も同じだったようで、少し遅れてクラトが声をあげる。

「あ。こら、ミトシ!」

クラトが咎めるように言っても、ミトシは気にしていないようだった。可愛らしく頬を寄せてくる。クラトは諦めたようにアキのそばまで来ると、視線を寄こした。

「久し振り。元気にしてたか?」
「はい、おかげさまで。クラトさんは?」
「人が減って大変だよ。警備隊に入れる人材はそう簡単に見つからないっていうのに、無断の長期休暇が二人も」

肩をすくめるクラトにアキがくすくすと笑う。シンが姿を消したと言う話はアキも聞いていた。ウキツも最近戻って来たばかりで、それまでは三人で警備隊として動いていたのだと言う。

「なーに言ってんだか。お前が入る前だっておやっさん、シン、オレの三人だったぜ?」
「業務量が今とは違ったでしょう?」
「ははー。わかったか」
「わかりますよ。それくらい」

クラトは座ったままのウキツの方へ目をやり、またアキに向き直った。

「でも良かった。ずいぶん感じが明るくなったな」
「そうですか?」
「アキ、ずっと元気なかった。……見てられなかった」

ミトシが顔をあげ、じっとアキを見つめる。すると、突然視界からミトシの姿が消え、アキの身体は解放されていた。クラトがアキからミトシを引き剥がしたのだ。

「…………ぶぅ」
「いつまで抱きついてるつもりだ。ウキツさんも、なんとか言ったらどうです?」
「別に。突っ立ってねーで座れよ」

落ち着き払ったウキツの様子に、クラトはなんか調子狂うんだよな、とこぼしながらアキとミトシに席へつくよう促す。

「アキ。復帰する?」
「あ、そうだ。こっちでも鍛冶やるんだろ?」

同時に詰め寄られ、アキは少し考え込んだ。

「あの、私、鍛冶はもちろん続けるんだけど、その……剣は作れないの」
「剣が作れないって……どう言うことだ?」
「契約した」
「……契約?……クマヒの……?」

本当かと尋ねられ頷くと、クラトとミトシは驚いた顔になった。

「そ、そっか。契約したのか……じゃあ無理だよな」

本当にウキツさんと、とクラトが呟く。ウキツはそれを一瞥し、けれど気にしない様子で話を続けた。

「そゆこと。ま、ニギハのおっちゃんも戻って来たし、問題ねーだろ」
「はあ、まあ。……だからそんなに余裕なのか」
「何が?」
「そのままの意味ですよ。……ちょっと残念だけど、アキにとってはおめでとう、だよな。おめでと」

お祝いの言葉に照れ笑いを浮かべていると、隣にいたミトシが眉をよせ、アキを見ている事に気がつく。

「ミトシ君?」
「……作って」
「だから作れねーって言ってんだろ」
「剣じゃない。アキ、これからも専属鍛冶師」
「なるほど。ミトシは勾玉だったな」
「げっ……」

意表をつかれ、思いきり顔をしかめるウキツにクラトが吹きだして笑い、ほら、と言う表情をした。

「契約したからって安心して横柄な態度とってると、すぐ逃げられますよ?」
「ほー。知ったよーな口ききやがって」

火花を散らしてウキツとクラトが言い合いを始めるけれど、その表情は互いにどこか楽しそうだ。ミトシは騒がしさに不満がありそうで、それを含めてもアキの目には微笑ましく映っていた。



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