契約

「おじいちゃん、私がヤカミに行くって言っても驚かなかったね?」
「そーか?」
「うん。まるで元から知ってたみたいな……そう言えば、ウキツが帰って来た日、おじ
いちゃんと何か話をしていなかった?」
「いや。べ、別に。……お、あったあった」

目的の場所を見つけると、ウキツが早足になり、整えられた岩の上に片手を置き体重をかける。トウラの組み立てた墓石だった。

「まさか、アキと契約する事になるとはな」
「どうせまた、最初の時の事を言うんでしょう?」

アキが眉をひそめるのに気がつかないまま、ウキツは後から歩いて来たアキを出迎えるように手を差し出す。

「そんなに言うなら、もっと技術のある鍛冶師と契約すればいいじゃない」
「他のヤツと契約したって意味ねーだろ?」
「私と契約するのは意味があるんですか」
「あるんですか?って、お前な……。何怒ってんだよ」

黙って見上げると、ウキツが気まずそうに頭をかいた。

「あーあーわかった。悪かったよ。いくらその、……あれだからって、中途半端な能力のヤツと契約なんてするわけねーだろ?」
「あれって何です?」
「聞くな!」

笑い出しそうになるのをこらえながら、アキは澄ました顔をする。

「お前な、黙りこんだらオレが話すとでも……。契約するぞ」

二度目の同じ手段は通用せず、アキは渋々クマヒの石を両手に乗せ持ち上げた。ウキツがそれに上から両手をかぶせる。

「っと、こんな感じか。オレのイミナは……ちゃんと覚えてっか?」
「……決まってるじゃない。ウキツのイミナはオルタモナ。私のイミナは、ブリハウ」

ふーん、とウキツが口の端を持ち上げた。その表情に見とれていると、目が合って続きを促される。つい気恥ずかしくなって、アキは頬を赤くした。気を取り直してクマヒに目線を戻す。

「戦は終わったけど、私、ウキツの剣を作りたい。いつどこにいても、ウキツの力になれるように」
「オレはこれから一日でも多く、こいつとソルの陽を迎える。その為なら何だってできる。何せ、バルハラから戻ってきちまったんだからな?」

いたずらっぽく言うウキツに、アキが笑みを零す。

「ふふ。なんだか……夢みたい」
「こら。夢とか言うじゃねーっつの」
「だって、嬉しくて。こうして契約できるなんて」
「…………オレだってそーだ」

照れくさそうに言うと、ウキツが腰を屈め、アキと目をあわせた。どちらからともなく顔を近づけ、やがて唇が重なる。淡い光を放っていたクマヒが、より一層まぶしい光を放ちあたりを照らし続けた。



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