秘密の約束

「全っ然酔えねー……」

小さく呟きながらウキツは息を吐いた。はしゃぎ疲れたのか、アキは2階でぐっすりと眠っている。ゆらゆらと揺れる炉の炎を眺めていると、トウラが隣へやってきた。

「ワシに話かの?」
「じーさん。……んと……」

慌てて姿勢を正す。 トウラはふっと笑ってウキツを見た。

「アキから話は聞いておる。色々お世話になったそうじゃの。ああ、どうゆう間柄かと言うのも知っとるよ」
「そ、すか……。あの」

ウキツはトウラに向き直ると、そのまま頭を下げた。

「オレの墓を作ってくれたそうで、ありがとうございました」
「……ああ、じゃが、余計なお世話だったようじゃの?」
「んなこと……そんなことないっす。あれはアイツにとって……いや、オレにとっても必要な物でしたから。……どうやって戻って来られたのかとか、自分自身信じられない事だらけなんすけど。……アキのおかげで戻って来れたって、そう思ってる。あの墓のおかげでアキとつながっていられたっつーか……」
「ほう?」
「あの、待ってる人がいたからがんばれた、ってやつ。あれっす」

トウラは優しい顔をして、ウキツを見たまま黙って頷いている。

「それで、話なんすけど……もひとつ……」
「アキの事かね?」
「……はい」

ウキツは大きく深呼吸をして、口を開いた。

「こんな事、突然すぎるってわかってるんすけど、この機会を逃したらオレ、また逃げてばっかの自分に戻っちまう気がする。だから……じーさんに、頼みがあります」

そう言って、さっきよりも深く深く頭を下げる。

「……娘さんを、自分に下さい」

じっとその体勢のままでいると、やがてぽんと肩に手を置かれた。トウラが困ったような顔でウキツに顔を上げるようにと言う。

「まさか、こんなに早くそう言う事を言われるとは思わなんだが……いやいや、ウキツ君だからと言う意味じゃないんじゃよ。たった18歳で嫁に行くことになるとは、思っておらんでの」
「あ、でも、まだオレもアキに話したっつーわけじゃなくて。もちっと落ち着いてからって思ってるんすけど……や、じーさんに承諾もらう前からこんな事言うのもあれか……」
「……おや?ワシは反対などと言っておらんが?」
「へ……?」

ぽかんと口を開けるウキツに、トウラは満足そうに笑った。

「ワシがアキの幸せに反対するわけないじゃろう?……ウキツ君も、前よりずっと立派になったみたいじゃしの」
「そ、それじゃ……」
「まだまだ子供で、ウキツ君にもたくさん迷惑をかけるじゃろうが……こちらからも頼みますじゃ。あの子を幸せにしてやっておくれ」

ウキツは驚きで目を丸くした後、勢いよく立ちあがる。心底ほっとしたと言う表情で、また頭を下げた。

「……ありがとうございます!」



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