こんなに早い時間に目が覚めたのは久しぶりだった。広間へ向かう途中で身支度を整えたアルトやリュカとすれ違う。鍛練かとたずねるとアルトはおう、と明るく返事をした。リュカが気まずそうな表情をしているように見えて、首を傾げる。
「あ、……美味い朝飯作っておいてくれよ」
「ふふ。わかった」
何やら賑やかに廃墟を出て行く二人を見送ると、食材を確認するため広間に向かった。前日のうちにみんなで採集や狩りをした甲斐もあり、それなりの量を用意できそうだ。上機嫌で下ごしらえを始める。作業がひと段落して時計を見ても、まだいつもの起床時間より早い。大きく伸びをして、もう一眠りなんて考えながら近くの部屋の戸を開いた。既に先客がいたようで、すーすーと規則正しい寝息が聞こえてくる。何の確証もなかったけれど、彼に違いないと言う気がしていた。忍び足でソファへ近づく。予想通り、細身の男性がソファに横たわっていた。
「ネム」
小さい声で呼びかけてみる。ネムはなんの反応も示さない。ぐっすり眠っているようだった。思わず口角をあげてにやりとする。なんて悪趣味なんですか、と言うネムの声が聞こえるようだったけれど、その寝顔を確認するために正面にまわった。身体が上下するのとあわせて青く繊細な髪が揺れる。同じ色をしたまつ毛はまるで女の子みたいに長くて綺麗だった。薄い唇が少し開いていてとても無防備に見える。ナナミはほうっと息をついた。ネムのこんな姿を見られるなんてそうそうない。ネムはいつも起きた途端に神経質な顔になってしまって、少し見入っていただけで睨まれるなんてしょっちゅうだった。そのままそうしていると、ネムの眉がぴくりと動く。少し長居し過ぎただろうか、立ち去ろうにも焦りの方が大きく、立ち上がることができない。重たそうに瞼が持ち上げられ、その目がナナミをとらえる。目が合ってしまった。
「…………ナナミ?」
ネムが呟き、まさかと言うように苦笑する。ふわりと微笑むネムに見とれていると、ナナミはいつの間にか頭を引き寄せられていた。ネムの表情は見られないけれど、さっきよりもずっと距離が近い。耳を寄せれば穏やかな心音が聞こえてくる。髪に息がかかってくすぐったい。ナナミはそのまま動けなくなって、引きこまれるように眠りに落ちた。
「まったく」
次に目覚めたとき、ネムはいつもの苛立たしげな表情に戻っていてがっかりする。ネムの言い分はこうだ。
「僕が朝に弱いのは知っているでしょう。あなたまで眠ってどうするんですか」 「ごめん……」
眠る前に見せてくれた笑顔は今まで見た事がないくらい優しくて、何よりも綺麗だったのに、と独り言ちる。はあ、と一際大きいため息が聞こえた。
「だから、ごめんって……」 「いいえ。自分の行動に呆れているんです。ナナミがあんなに近くにいるなど、現実ではありえないと思って油断していた」
段々と小さくなる声を拾おうと体を寄せる。不機嫌そうなネムと目が合った。
「……なんでもありません」
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