夕飯の支度が一通り終わり、果物でもむこうかとカゴへ手を伸ばす。今朝の時点では確かにカゴの底が見えようとしていたのに、今ではそれが三段に積まれていた。変わらない優しさに胸が温かくなる。すでに席で待つカインにお礼を言うと、カインは柔らかく微笑んでくれた。
「カインの好きな食べ物も聞かせて?」
スープに口をつけていたカインが喉を詰まらせむせる。慌てて傍へ寄り背中をさすると、カインは二、三度深く頷いて息をととのえた。
「すまない」
「ううん。でもどうして急にむせたりしたの?」
「君の質問に驚いた」
赤く頬を染めるカインにますます目を丸くする。カインがしてくれるように、ナナミもカインの喜ぶ事をしてあげたいと思っただけなのだけれど、それがそんなに可笑しい事だっただろうか。
「そんな事は考えた事がなかったから……君の料理はどれも美味しいし」
ナナミの料理をいつも美味しそうに食べてくれるカインを思い浮かべれば、その言葉が嘘でない事はわかる。でも、そうじゃないの、と口を尖らせてみた。案の定カインは困った顔をして慌てふためく。
「今まで美味しさより、即効性のある食べ物は何だとか、……それしか考えていなかったんだ」
肩をすぼめ、申し訳なさそうに見上げてくるカインにナナミはこらえきれなくなって吹きだした。
「怒ってないかい?」
「はじめから怒ってなんてないよ」
「そうか。ならよかった」
ホッと息をつくカインに愛しさが込み上げてくる。この人はどうしてこんなにも優しいのか。その健気さに触れる度に嬉しさと同じくらいの切なさがナナミを襲う。そうしてぎゅっと抱きしめたくなる衝動を堪え切れなくなるのだ。
「ナナ、ナナミ!?しょ、食事中だぞ?」
そう言って身体を強張らせるカインに、ナナミはより一層抱きしめる力を強くした。
「き、き、君は一体何を」
カインがもごもごと効力の無い抵抗をする。その様子をじっと見つめていると、カインがやっと顔を向けた。困り顔のままこちらの感情を探るように目を見てくる。
「なあに?」
「……君がそれで良いなら良いんだ」
ふふ、と笑みをこぼしてもカインは怒りもせず、逆にナナミがつらくないようにと姿勢を正してくれた。それが嬉しくて余計に離れがたくなる。
「できれば、冷めないうちにスープを飲んでしまいたいんだが。いや、決してこうしているのが嫌と言う意味ではないんだよ」
その言い方はやっぱりどこか可笑しい。ナナミはようやく満足すると、カインを解放した。気を取り直して自分の席に戻る。カインはそんなわずかな動作にも優しい眼差しを向けてくれていた。
「ほら、冷めちゃうでしょ」
「ああ。そうだったね」
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