ふらぐめぃかぁ!

カスガ×アキ

おかわりを求められたのはこれで二度目だ。目をまん丸くして差し出されたお茶碗を受け取る。

「どうしたのだ?」
「あ……いえ」

不思議そうな顔をして見上げてくるカスガにアキはにっこりと微笑むと、ご飯をよそい手渡した。

「作ったかいがあります。いつもこんなに食べるんですか?」
「ああ。自分にとってはこれが普通なのだが」
「ふふふ。カスガさん、体が大きいですもんね?食費、大変そうだなぁ」

なんとなしに呟く。咎めたつもりはなかったが、カスガが少しギョッとした顔になった。

「すまない……」
「はい?」
「食費が増えれば、アキ・ミヤズの負担になるだろう。つい好意に甘えてしまっていたが」

そう言ってカスガは視線をそらす。誤解を解くためにアキは慌てて否定をした。

「そ、そんなつもりで言ったんじゃないんです。ちょっとした感想と言うか。誘っているのは私なんですから」
「しかし……」
「大勢で賑やかに食べた方が楽しいですし、お話もできますし。こう見えて注文だってとれてきているんですよ?本当に生活が苦しかったら誘いませんって」

力のこもった言い方に、カスガがふっと笑う。

「そうか。頼もしいな」
「はいっ。だから安心していっぱい食べて下さいね?」
「わかった」

それからしばらくして、食器の片付けなどを終えたアキは依頼帳を取り出し明日の計画を練っていた。依頼の進度を記入しようとすると、見覚えのない依頼が追加されている事に気がつく。

「これ、カスガさんですか?」
「ああ。勝手に書かせてもらった」
「書いてもらうのはいいんですけど……ってこれ、報酬が高すぎます!」

依頼内容に対し、報酬額が考えられる範囲を超えていた。間違いかと思ってカスガ を見ても、気にせんでくれ、と言う答えが返ってくる。前にも報酬のおまけをしてもらった事はあったが、それはお店を持ったばかりの頃の話で、店が軌道に乗り出した今、こんな風に甘えてしまうわけにはいかない。困っていると、見かねたカヤナが様子を見にこちらへやって来た。

「どれどれ……ふ。ははは!カスガ、これは甘やかしすぎだろう」
「そんな事はない。アキ・ミヤズには面倒をかけている。このくらいでちょうど良いのだ」
「だがなぁ、カスガ……」

カヤナが呆れ、カスガを諭そうと話し始める。カスガはそれを遮り、照れた様子で弁解を始めた。

「いや、正確には相場より高いと言うのはわかっているが、食事代を払おうとしてもアキ・ミヤズはいらないと言うし、かと言って誘いを断る事もできん。となっては……こうでもしないと自分の気がおさまらんのだ」
「もしかして、私の誘い方が強引でしたか?」
「そうではないが、その……。仕方ない」

心配そうな表情のアキを見て、カスガは肩をすくめる。小さくため息をつくと、降参したと言う風に話を始めた。

「アキ・ミヤズの料理は不思議と懐かしい味のする気がしてな。好きなのだ。毎日でも食べたいと思わせる味、と言うのだろうか。それを断る事はできんだろう?」

予想外の笑顔を向けられ、アキは戸惑ってしまう。

「毎日来てもらったって、構わないんですよ?」
「またそう言うことを言う」
「だって。そう言う風に言ってもらえて嬉しいんですもん。それに、それを言うならカスガさんの方だって」

アキが口を尖らせ抗議の色を示すと、カスガは不思議そうにアキを見下ろし、次の言葉を待った。

「自分が何かおかしい事を言っただろうか?」
「前にシンさんが言っていたんですけど、あなたのご飯が毎日食べたいって言うのは口説き文句なんですって。結婚して下さい、みたいな」
「なっ……。全く、シンは何て事を言っているのだ。しかし、そうか……なるほど、そうだったか……」

考え込んでしまったカスガに、アキは呼びかける。

「カスガさん?」
「いや。何でもない。気にせんでくれ」
「……と言われてもなぁ」

カヤナは上の空のカスガを見ながらニヤニヤと笑っていた。アキの視線に気がつくと、何か言いたげにこちらを見てくる。

「それを承諾したアキもアキと言うことか」
「え?何の話?」
「さあ。何だろうな?」



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