琥珀色の誘惑

カスガ×アキ

踏み台の上でつま先立ちをして、精一杯腕を伸ばす。目的の物に触れたと思い力を入れてみるも、掴んだのは空気だけだ。空振りした右手がむなしく宙を舞った。

「アキ・ミヤズ。何をしている」
「ちょっと、上に置いた荷物を取りたくて」

アキは首を少し振り向かせて答える。顔は見えなかったが、見ずとも誰が来たのかわかっていた。アキの事をそうやって呼ぶ人物は一人しかいない。アキが口元を綻ばせながら正面へ向き直ると、カスガが隣へやってくるのがわかった。それから同じように棚の一番上の段へ手を伸ばす。

「何を取りたいのだ?」
「あの、麻袋を」

言いながら顔を向けると、ちょうど目の前にカスガの顔があった。カスガはアキよりずっと背が高い。アキはカスガを見上げるのが常で、今まで座っている時でさえ同じ目の高さになった事はなかった。それが同じ高さになり、いつもの数倍近い距離にアキが頬を赤らめる。その間にカスガは腕を伸ばし、アキが取ろうとしていた麻袋を簡単にその手におさめてしまっていた。アキが目を瞬いていると、カスガが不思議そうにアキを見る。

「これではなかったか?」
「あ……あってます。どうして届いたのかなって」

同じ高さなのに、とアキが首を傾げると、カスガが考えるように自分の顎へ手をやってから答えた。

「腕の長さの違いだと思うが」
「なるほど。そうですね」

試しにアキの腕とカスガの腕を見比べてみる。長さも違えば、筋肉の付き方もまるで違った。

「他に取るものはあるか?」
「いいえ。大丈夫です」

アキがお礼を言って台から降りようとする。その時、アキの身体がふわりと持ち上げられ、考える間もないまま台から降ろされていた。

「しかし、もし届いていたとしてもこの重さ、アキ・ミヤズでは支えられまい。こう言う事は自分に任せてもらえないだろうか」
「え……?あ、はい。すみません」

訳のわからないままコクコクと頷く。

「わかったのならいい」

アキの動揺を知ってか知らずか、カスガは満足そうに頷いた。



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