数分前までこんな気配は全くなかった。どちらかと言えば気持ちが高揚していたくらいだと言うのに、今は目の前の光景に苛立ち、普段からあまり良いとは言われない目付きをさらに鋭くしているのが自分でもわかる。差し入れでも持って行ってやろうと唐突に思い立ちアキの家へ向かっていると、その途中でアキの姿を見つけた。よりにもよってクラトと一緒にいる所に出くわすとは。クラトとアキは自分より歳が近いし、二人とも真面目な顔をして大ボケをかましたりとどことなく似ている所があった。波長があうのか、話も合うようで、並んでいる姿を見て他人はお似合いと言うのだ。気に入らなかった。
「あのさ」
話しかけると、アキはクラトを見上げて小さく首を傾げる。先ほどからクラトが感じている背後の嫌な気配を、アキは全く察知していないようだ。彼女の警戒心の薄さを案じつつも、クラトからそれを教えてやる気はなかった。しかし、クラトの心とは裏腹にアキは後ろの人物に気が付いてしまうのだ。
「ウキツさん。どうしたんですか?」
アキの問いかけにぶっきらぼうに答えながら、ウキツがアキの隣に並ぶ。
「どうもしない。こっちに用があるんだよ」 「ああ。ウキツさんの知人がいるのって、この辺りでしたっけ?」 「違うけど。っつーかクラトが口はさんでくんな」 「そう言われても。俺がアキと一緒にいる所に、ウキツさんが現れたんじゃないですか」
対峙するクラトとウキツにはさまれ、アキが肩をすくめる。ウキツはクラトの視線を避けてアキを見下ろした。
「何してたん?」 「新しい雑貨屋さんができたって聞いて。案内してもらったんです」 「ほー。雑貨屋さん、ねえ」 「なんですか?俺はただアキが好きそうな店だと思ったから気になっただけですよ」
アキはウキツとクラトのやりとりを止めることはできないと諦めていたが、雑貨屋の話に嬉しそうに口を開く。
「可愛いお店でしたよね。どれもこれも欲しくなっちゃいました」 「あ〜。だから買ってやるって言ったのに」
クラトがアキの顔を覗き込むようにして少し咎めるように言うと、アキが慌てて首を振った。
「そんな。悪いですから」 「…………クラト、お前そろそろ交代じゃねーの?」 「わかってますよ」 「本当。もうこんな時間」
アキにもそう言われ、クラトは渋々足を止める。
「じゃあ、俺もう行くけど……」 「今日はどうもありがとうございました」 「うん。じゃ、またな。ウキツさん、アキのこと家まで頼みましたよ」 「へいへい」
わかっているのかわかっていないのか、飄々としたウキツの答えに顔をしかめながら、クラトは二人と違う方向へ歩きだした。気になって振り返ると、ちょうどウキツがアキの頭の上に小さな紙袋を置くところだった。
「ほい」 「な、なにするんですか」
アキが両手でそれを支え、袋を顔の前で一睨みしてからウキツを見る。
「あれ?これ」 「茶くらい入れろよな」
顔を見合わせてじゃれるアキとウキツに、クラトは自分の発言を後悔していた。
「家までよろしくって言うのは失敗だったな」
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