くらり昼下がり

コトヒラ×アキ

確か、今日はケノ辺りまで採取へ行こうと決めたはずだった。それがどうしてこんな 事になってしまったのか。戸を開いた所で待ち構えていた兵達によって、アキは強引に連れ去られたのだ。監視役のサナトが兵の一人と一言二言会話を交わす。サナトは一瞬呆れたような顔をして目を伏せると、アキには何の説明もなしに連行を承諾した。そうして連れて来られたのが、この王の間である。アキは玉座の前で膝をつかされた。正面にこちらの国の王の気配を感じ、頭を垂れる。一体何が起ころうとしているのか。今さら過去の無礼を罰せられると言う事もあるのだろうか。

「何をブツブツと言っている」
「え!?い、いえ……何も」

はっとして口をおさえる。いつの間にか声に出ていたらしい。コトヒラはさして気に留 めない様子でそれ以上追及する事はなかった。

「場所を替える」

コトヒラがそう言うと、従者がアキの左右の腕を引き上げ立ちあがらせる。ついて行けと言う意味らしい。アキは様々な疑問を抱きながらコトヒラについて歩く。薄暗く冷たい城内から一転、辺りは色とりどりの花が並ぶ庭園へと変化していた。

「……あの」

自分からは口を開いてはなるまいと思っていたのに、アキはつい疑問を口にしてしまっていた。コトヒラがいつもと変わらぬ無表情で一瞬視線を寄こす。

「何のご用で私は呼び出されたんでしょうか」

呼び出されたって感じでもなかったですけど、と言う本心はさすがに言わずにいた方が良い気がする。アキの質問に、予想外の答えが返ってきた。

「気分転換だ」
「気分転換……?誰の……?」
「無論、余に決まっている」

アキはそれが一国の王と言う事も忘れ、唖然としながらその顔を凝視した。次第に 怒りが込み上げてきて、握った拳をわなわなとふるわせる。

「王様。ご存知だとは思いますが、私はこの国にいる間毎月納税と言うものをしなくてはならなくて、鍛冶屋の収入をそれにあてているんです」

そんな事は知っている、と言う顔のコトヒラに、アキの口調は強くなった。

「今朝はそのための鉱石を採りに行く所でした。鉱石を取りにいかないと、依頼品を作ることができなくて、お金をもらう事ができないからです」
「何が言いたい」
「ですから、私の生活は切羽詰まっていて、こうして王様とのんびりお庭を眺めている暇はないって言うことです!」

言い切ってから我に返る。アキは全身から血の気が引いていくのがわかった。

「ほう」

コトヒラは何事かを考え込み、あごに手をあてている。

「どこの何が必要なのだ?」
「え?鉱石ですか?」

目を瞬きながらアキが採取場の名前を二、三挙げると、コトヒラは近くの従者を目で 呼び寄せた。

「カスガとアクト、タカミを使いこの娘が言う鉱石を採ってこさせよ」
「は……?」

眉一つ動かさずに、従者が恭しく頭を下げる。戸惑っているのはアキだけのようだった。

「い、今のは何ですか?」
「鉱石が手に入れば良いのだろう」
「そうですけど……って、え!?」

アキの悲鳴に似た声が庭園に響き渡る。なんでこんな事に、と言う気持ちと、今頃不満をこぼしているであろう親衛隊の面々を想像しながら、アキはコトヒラのありえない気分転換に付き合うのだった。



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