麗らかな昼下がり、熱した鉱石を叩く音が部屋中に鳴り響いていた。ひと段落ついたところでアキは手を止め額の汗をぬぐう。今日の監視役はヒノカだった。彼のいる方に目をやる。ヒノカは手元の本に目を落としていたが、アキの視線に気がつくと顔を上げ、紅色の瞳を細めて笑顔を向けた。勘定台にしまってあった小さな腰掛けを引き出し、監視役の為に
用意した椅子に腰掛けるヒノカと同じ目の高さになる。アキは台に身を乗り出すようにして、ヒノカに話しかけた。
「ねえ、ヒノカ君」 「どうしました?アキさん」 「あの、うるさくしちゃってごめんね。読みにくかったでしょう?」
アキが申し訳なさそうに眉を寄せ、ヒノカの持つ本を指で示す。ヒノカはゆっくりと首を横に振った。
「そんな事はありませんよ」 「でも……」
パタンと音をたて本が閉じられる。ヒノカは顔周りの髪をよけるように耳にかけると、アキがいる方とは違う方に顔を向けながら口を開いた。
「本にしても星読みにしても、つい没頭してしまって。気がつくと、世界に自分一人しかいないと言うような錯覚に陥ることがあるんです。幼い子供みたいですよね」
ヒノカが自分の事を情けない、と言う調子で言う。ヒノカの口から弱音を聞く事はあまりないので、アキは否定するのも忘れて目を瞬いていた。
「そう言う時、あなたの声や鉱石を打つ音が聞こえてくると安心するんですよ」 「……そっか」
意外な告白にはじめは驚いたものの、すぐに嬉しさがこみあげてくる。くすぐったさを感じて、視線をヒノカの手元の本へ移した。
「ところで、何を読んでいるの?」
これですか、とヒノカが本を持ち上げ表紙を見せる。難しそうな題名が現れ、アキはすぐにたずねた事を後悔した。
「アキさんも読まれます?」 「う、ううん。やめておくね」
体の前で大きく両手を振り申し出を断ると、ヒノカがくすりと笑みをこぼす。その反応に、アキは恥ずかしくなって口を尖らせた。
「今、笑ったでしょ?」 「すみません」
謝ってなお笑ったままのヒノカに負け、最後にはアキも笑顔になってしまっていた。
「もう」
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