自然界ではあまりないような、人工的に作られた香りが鼻腔をくすぐる。思い切り吸い込んでみる。これは、露店で売られている、フルーツ味のキャンディにありそうな香りだ。ナタリアはあまり、そう言うものを食べない。食事の席以外で、食べ物を口にすることに慣れていないのだと思う。今度、色とりどりのそれをテーブルに置いておいたら、また興味深そうに瞳を輝かせ、喜んでくれるかな、などと想像をした。腰を浮かせ、心持ちナタリアに近づく。再び腰掛けた時のソファの沈みが予想外に大きく、ずずず、と、つられたナタリアがガイの方にもたれかかってきた。目が合ったので微笑んでみせると、ナタリアはそのままの位置に落ち着いた。なんだろうな、これは。
「いちご?」
小さく呟くと、ナタリアが律儀に反応をした。
「苺が食べたくなりましたの?」
「いや、」
「苺と言うと、やはりエンゲーブ産が一番品質が良いですわよね。用意させましょう。」
「え?いや、それは、まかせるよ。」
別に、苺自体があろうとなかろうとかまわない。ガイは、漂う香りの話をしている。
「苺の香りがするんだ。キミから。」
「私から?」
ナタリアが自身の手の甲を鼻につける。
「ああ、頂き物のシャワージェルを使ってみたんですけれど、それが苺の香りだったのかもしれませんわね。」
「へえ。」
だから人工的なのか、と納得をした。ガイが神妙な面持ちでいるのを見て、ナタリアが、ふふ、と笑みを漏らす。
「苺の香りで、お腹がすいたのでは?」
「ああ。まあ。」
ナタリアが理解しているかどうかは別にして。うなじに顔を寄せ、唇で肌に触れる。
「本当に、おいしそうな香り。」
|