陽だまりのなかで 2

ナタリアのお話

第七音譜術士としての才能を期待されるようになり、学ぶべき事がまたひとつ増えた。けれどナタリアにとってそれは苦ではなかった。

「近づくんじゃない。稽古の邪魔だ」

いくつもの習い事を片付け、ようやく会えると心を躍らせ訪れたと言うのに、ルークはこれから剣の稽古だと言ってナタリアを追い返そうとした。ぶっきらぼうな物言いだが、彼なりの思いやりだ。

「ここで座って見ています。周辺への被害を最小限におさえることも剣士の心得ですわ」

ナタリアは強引に傍のベンチに腰掛ける。ルークはそれ以上は何も言わず、木刀を構えると同じように木刀を構え立つガイの方へ体を向けた。

「行くぞ」

ルークが力を込めて腕を振り下ろす。最初の一振りはふせぎはじかれ、木刀のぶつかり合う音が響いた。ルークはナタリアよりもひとつ年下だったが、知識に溢れていた。立ち振る舞いも美しく、正装をした時などは惚れ惚れする。普段もそうであり、今木刀を振る姿もまたナタリアには格好よく見えた。行動力もあり、いつもナタリアを手助けしてくれる。ずっと幼い頃から共に過ごして来たので、彼がいない生活と言うのは想像し難い。それには彼が婚約者であると言う外すことの出来ない前提があるのだが婚約者と言う関係について嫌だとは一度も考えたことが無かった。ナタリアは彼を心から慕っていたのだ。

「見ているんじゃなかったのか」

まどろんでいたナタリアの隣にルークが座る。

「見て、いましたわ。だけどあなたが切り込み、ガイがふせいでの繰り返しで」
「それが稽古だ。見てもつまらないから帰るようにと先に言っただろう」
「あ……それよりも、ルーク。そこで見ていてください」

立ち上がりルークたちが稽古をしていた場所へ歩く。まだガイが稽古用の木刀を拾い上げているところだった。見ると、ガイは先程の稽古でいくつかかすり傷を負っているようだった。

「ちょうど良いですわ。ガイ、そこで止まっていなさい」

一体何を、と身を強張らせるガイの額へむけて手をかざす。

「これ以上近づいたり触りはしませんから、動かないで」

空気を吸い込み、習ったばかりの一節を詠唱する。てのひらに第七音素があつまり、温かい光となって広がったそれを一番傷口が目立っていた額へとそそぐ。

「どうです、私も役に立つでしょう」

ルークも立ち上がり傍へやってきた。興味深そうにふさいだ傷口を確認している。

「第七音譜術の訓練を始めたのか?」
「ええ。今のは、初歩の治癒術です」

人へ向けて使うのは初めてだったが、結果には大満足だ。

「ありがとうございます。」

自身の額に手をやっていたガイも、痛みがひいたことに気付き礼を言う。

「あなたの体質も、譜術で治れば楽ですのに。ねえ?」
「それは自分で解決するしかない。」
「そうだとしても、きっかけを与える事はできるでしょう。私たちで手助けできる事もあるはずですわ」
「……わかっている。」

口を尖らせて言うと、ルークは眉をしかめてしまった。こうなったのは、ガイが原因だと言うのに。

「本人は全然会話に参加して来ませんのね」
「あまりガイをかまうな」

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