何も無いところで何故転ぶ

ガイ×ナタリア

キョロキョロと物珍しそうに辺りを見回す。露店のひとつひとつに声を上げる様子は見ていて微笑ましく、あえて口を出す事をしなかったために気がつけばガイとナタリアだけ他の仲間から離れた位置を歩いていた。彼女が楽しんでいる所を急かすのも気が進まないし、彼女を放って先を進むことも出来ない。まあ、急がずともほかに4人も行動を共にしている人間がいるのだから、全員揃って宿探しに精を出す必要もない。それでも、流石にはぐれてしまっては困るので、前方を歩く仲間達とナタリアを交互に確認する。しかし、どうしても目がいってしまうのはナタリアの方である。人がまばらなのでまだ良いが、露店ばかりを気にしているナタリアはどう見ても前方不注意だった。さっきから何度も人とぶつかりそうになているし、つまずいてフラついたり、危なっかしくて見ていられない。

「ナタリア、もうちょっと注意して歩いてくれないと……」
「何か?」

言っているそばから体勢を崩すナタリアに、ガイは手を貸す事もできない。わざとらしくため息をついてみせるが、ナタリアはそれを気にも留めずに歩みを進める。

「本当に危ないと思っているなら手を貸しなさい。できるでしょう?」
「できるわけないだろう」

不服さを声に出して言う。そんな態度を一喝しようと振り返ったナタリアが、ガイを見るなり目を瞬いた。まさか振り返ってくれるとは思っていなかったので、ガイの方も彼女に見られて良い顔をしていなかったのだ。茫然とした彼女と目を合わせること数秒。ナタリアが気まずそうに呟いた。

「あなたが思いのほか嬉しそうな顔をしているから、何を言おうとしたのか忘れてしまいました。」

その後はようやく歩調をあわせてくれたナタリアが、何がどうして嬉しいのかと繰り返し問うので、緩みそうになる頬を引き締めながらガイはなんでもないと答えた。信頼を置かれて嬉しいと、今なら素直に受け止めることができるのだが、それをここで言ってはまた周りがうるさくしそうなので。

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