身勝手な不機嫌

アシュナタ←ガイ

ナタリアがもし大人しく城にこもっているような性格であったら、きっとこんな体験はしないまま悠々と暮らしていただろう。ところが彼女はかなりの行動派で、無垢な笑顔と好奇心を惜しみなくさらけだす人だった。強行軍とわかっていて、自らついて来ると言うのも実に彼女らしい。とはいえこの炎天下、砂漠を徒歩で横断させては弱音のひとつも吐きたくなるのでは。水を汲んで戻れば何やら彼女が気を落としていて、やはり体力が追いつかないのだろうと心配してみたが、それは全くの見当違いであった。

風に乗り漂うバニラの香りは当然ガイの気を惹く。気が気でないという感情が日増しに大きくなっている。ジェイド、あんたこうなる事を見越して言ったな。恨めしい視線を送るも、ジェイドは見て見ぬフリだ。たしなみなんて言われてから、ナタリアは熱心に香水の勉強をはじめた。今まで彼女に何度と無く振り回されて来たが、今回の行動をガイは歓迎できずにいる。どう考えてみても、ガイに初恋相手がいるとしたら彼女以外に考えられない。歳を片手で数えられ、舌足らずに一生懸命話をしようとする頃から見てきたのだ。段々と大人びていく彼女に惹かれなかったわけがない。でもそれには、今思い返してみれば、と言う前置きがあるのだ。子供の成長は目に見えて早いがそれでもガイは大人しく見守る事が出来ていた。しかし近頃はどうにも。

ガイは表情にこそださなかったが、香りを褒める事もできず、本当に何でもない顔をすることしかできなかった。そして、こんな時に現れたら最悪だと思っていた相手は狙ったように顔を出す。奴は動揺を隠せずに、それこそ鈍いナタリアが気付くほどに顔を赤らめ彼女を満足させるのだ。

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