HONEY HONEY

ガイ×ナタリア

「ガイラルディア、お前は今後ネフリーの世話をするな。」

この人が言うネフリーには二つ種類がある。一方は人間の女性で、もう一方はブウサギのメスだ。世話と言う言葉が付け加えられたと言う事は、今回はブウサギのネフリー事を言っているのだろう。そもそも、この人がガイに前者の話をする事などない。

「他のブウサギについては今まで通りお前に任せる。」
「……はあ。」

気の無い返事に、ピオニーが怪訝そうな顔をする。慌てて姿勢をただした。

「かしこまりました。」
「俺がお前とネフリーの関係に嫉妬してこんな事を言い出したとでも思ってるのか?」
「いえ。そんな事は。」
「残念だがハズレだ。そう言うのはお子ちゃまの発想だ。だが、可愛い顔してお願いされたら認めるしかないだろ?」
「一体誰が陛下にそんなお願いをするんです?」

返答は期待していなかったが、ため息交じりで呟く。ピオニーは口の端を持ち上げニヤリとした。

「わからないのか?お前のとこにいるお姫さんだぞ。」


客間に通されたナタリアは、大人しくソファに座っていることができず右往左往していた。棚にならぶ本の背表紙をなぞったり、点在する音機関を手に取り首をかしげ、
結局用途がわからず元の位置に戻すなどを繰り返している。その行動に特別な意味はない。ナタリアには今気がかりな事があり、そのせいで上の空になっていたのだ。突飛な命令をガイはどう思うのだろうか。今思えば、大げさに騒ぎ立てる事ではなかったかもしれない。少なくとも、他国の陛下まで巻き込む問題ではなかった。しかし、過ぎてしまったことは仕様が無いし、あの時ナタリアはどうしようもない程苛立っていて、大人しくガイの帰宅を待つなどできなかったのである。

昼過ぎのこと、ナタリアとガイはブウサギの部屋を訪れていた。普段からブウサギの世話を任されているガイは、当然彼らに気に入られている。餌を持てば足の周りにブウサギが纏わり付き、ブラシを持てば体を横にする。見慣れた光景だ。そんな事で機嫌を悪くなどしない。問題はこの後おこった。部屋を後にしようと立ち上がりかけたガイの膝に、一匹のブウサギが座った。心なしかつやのある毛並み、高価な首輪、ひときわ陛下が愛を注いでいるブウサギ、ネフリーだ。どくよう促すガイに一鳴きすると、彼女はそのまま睡眠体制に入った。動けなくなったガイは、困ったようにしつつも和やかな表情をし、それを受け入れたのだ

「ごめん。先に屋敷に行っていてくれないか?」

扉の開く音がし、意識をこの場に戻す。ナタリアの手元では、先程まで正方形だった箱がいびつな形に変形していた。素知らぬ顔で元の位置に戻す。

「遅くなってすまない。陛下と話をしてたんだ。」

ナタリアを確認すると、ガイは一直線にこちらへむかってくる。既に話はガイに伝わり、無理な注文をつけた事も知っているようだ。

「なんでこんなことを?」

理解できないという顔だ。ナタリアに対してガイがこう言う顔をするのは珍しい。ちくりと胸が痛むのを感じる。

「……あの状況が、不愉快でした。」
「……え?ああ、ネフリーの事じゃなくて、陛下が君から可愛い顔でお願いされたと言っていたけど?」
「それがどうかしましたの?」
「どうかしましたの?って、あの陛下にお願いなんて、何か変な要求をされたんじゃないか?」
「いいえ。何も。」

予想していなかったポイントで問い詰められ、困惑する。ナタリアの言葉が信用できないのか、ガイが腕組みをして覗き込んできた。

「本当ですわ。」

心外です、と眉をしかめると、ガイは問い詰めるのをやめた。どうやら、ネフリーの件で怒っているのではないらしい。

「この先、間違ってもあの人にお願いなんてしないでくれよ。何か願いがあるのなら、俺が聞くから。わかった?」
「ええ……」

意図がつかめず首をかしげながら答える。ガイはそれが満足いかなかったようで、ナタリアがもうわかりましたからと言い、はっきりと約束を取り付けるまで同じような問答を繰り返した。その後、急に機嫌を治したガイが思い出したように呟く。

「何も、ブウサギに嫉妬することないのに。」

ナタリアは忘れかけていた昼の出来事を思い出し不満をぶつけた。しかし、ガイが終始あの和やかな表情をするので、苛立っていた気持ちも曖昧にされてしまったのである。

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