さらばレイニーフェイス

ガイ×ナタリア

「今日も雨ですのね。」

黙って窓の外を眺めていたナタリアがポツリとこぼす。こちらから彼女の顔をのぞき見ることはできないが、普段より声のトーンが沈んでおり、不快そうな、つまらなそうな顔をしているだろうと言うのは容易に想像できた。

「私は昔から雨が嫌いです。」
「そうなのか?」
「雨の日はいつもよりもばあややお父様がうるさく言って、外出を許してくれませんの。ファブレ邸は城から目と鼻の先だと言うのに部屋に閉じ込められて。窮屈でしたわ。」

ぐるりと部屋を見回す。彼女は幼い頃からこの部屋で過ごしていたと聞いているが、
窮屈と言うには広すぎる部屋だ。何を考えるにもこの城を基準にしているようだから仕方がない。冒険に出て世界を見てきたと言っても、こう言う感覚はなおらないらしい。流石お姫様と言った感じだ。人一倍元気良く育った、ちょうど遊び盛りのナタリアを閉じ込めるのに狭いと言うのは頷けるが。

「よくここから眺めるのか?ファブレ邸が見えるもんな。」
「それもありますけど、最近はみんなとまわった色んな場所を思い浮かべますわ。」

いくつか地名をあげながら指を折り、ナタリアが楽しそうにしゃべる。何個目かで指が止まり、小さくため息をつくのが聞こえた。

「ただ、グランコクマは、あそこは青く晴天のイメージが強いせいか雨だと上手くいかなくて。」
「グランコクマを?意外だな。バチカルの窓からグランコクマを思い浮かべるのか。」

自分も窓際に並び腕を組み、彼女の様子をうかがう。

「そうですの?少しもおかしい事ではありませんわ。あなたは向こうでよっぽど忙しくしていますのね。」
「なんでそう言う話になるんだ?」
「なんでもありません。」

どこで機嫌を損ねたのか、ナタリアが視線をそらす。彼女がしていたように窓の外を眺め、はたして自分はどうだったかと考えてみた。

「俺はそれほど嫌いじゃなかったんだろうな。雨は。」
「どうしてですの?」
「なんとなく。」

雨があがった後のナタリアは、まるでたまっていた不満を吐き出すかのように普段以上によくしゃべった。堪え性のないルークは途中で聞き役を投げ出し、決まってガイが代わりの聞き役をやらされたのだが、そういう時彼女は、今でも思い出せるくらいに鮮やかな眩しい笑顔をしていた気がする。あの頃は認めたくなかったが、ガイは多分、その時間を嫌ではないと思っていたのだ。

「俺はまず君を思い浮かべて、次に景色だな。」

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