夕食もそこそこに自室へ戻ると、ガイは一直線に机へと向かった。逆さまに伏せていた書物を持ち上げ、後は考えずに腰を下ろす。柔らかいクッションなどが待ち受けてくれているはずもなく、あぐらをかくと床の冷たい感触が直に脚まで伝わってきた。
しかしそんな事より、ガイは月初めに発行されたこの大変興味深い書物を読み終えてしまいたかったので、背だけをソファにもたれ、冷たさは頭の隅に追いやることにした。どれ程集中していたのかわからないが、コンコンと扉を叩く音に意識を呼び戻される。伸びをして立ち上がり、扉を引く。ガイの目線では来客を確認できず、視線を落とすと、柔らかそうな金色が視界に現れた。
「こんな時間にどうしたんだ、ナタリア。」
「ココアをいれてきましたの。」
「……、俺に?」
「ええ。」
とりあえずは湯気の立ったそれを受け取り礼を言うが、まさか彼女にこんな事をされるとは思っておらず、戸惑う。いつまでも口をつけないでいるガイに、ナタリアが首を傾げた。
「冷めてしまいますわ。」
「ああ、うん、すまない。いやでも」
「でも?」
気を使わせてしまったようで申し訳ないな、と思う。そもそも、なんでこんな事をする気になったのだろうか。ナタリアがココアを飲みたくなり、ガイを呼び出しに来る、と言う方がしっくりきて、うんうんとひとり頷いた。しかし折角彼女が持ってきてくれたのだから、ここは素直にもらっておけば良いのだ。
「有難く頂戴します。」
「ええ。」
満足気に頷き、ナタリアが立ち去る。通路を曲がり後姿が見えなくなると、ガイは手元に残ったカップを見つめた。立ち飲みするのもどうかと思い、恭しく机に置いてみるが、冷めてしまうと言われていたのを思い出し、カップを口に運ぶ。液体を流しいれた途端に喉がつまるような感覚におそわれ、顔をしかめた。
「相変わらず独創的な味だな。」
一気に緊張が解けた気がして残りを飲み干すと、今度から容器は見分けがつくものにしようとか、砂糖は黒砂糖にしようとか、そんな事を考えながらガイはカップを洗っていた。
|