セセラカ

ナタリアと男性陣

冷たい空気と少量の雪が舞い込む。エントランスに目をやると、一組の男女が談笑しながら部屋に入ってくるところだった。女性の方と目が合う。彼女はガイに気がつくとニコリと笑った。

「戻りました。」
「おかえり。荷物を受け取ろうか。冷えただろう?キミはここで休んでいて。」
「ええ。お願いしますわ。」

暖炉の前を譲るために立ち上がる。振り返ると、何やら彼女と並んで荷物を差し出す男がいた。

「アンタは自分で運んでくれ。」
「仕方ありませんね。」

わざとらしいジェイドのセリフに、ナタリアが笑い声をたてる。

「なかなか有意義な時間が過ごせましたわ。」
「私もです。」

本当は、この珍しい組み合わせで出かけるのはいかがなものかと思っていた。子供じゃあるまいし、と、そこまで心配していた訳ではないが、思いのほか上手くいったらしいのには驚いている。

「気になりますか?」
「ん?何が?」
「ひとまわり以上年下の女性と話すのもなかなか新鮮です。」
「アニスなんてふたまわり近いな。」
「そうでしたか?あまり人を年寄り呼ばわりしないで下さい。」

あんたが言い出したんじゃないか、喉まで出かかった言葉を飲み込む。この男、ジェイドの標的になっている間は、とにかく余計な事は言わないに限る。今もナタリアをダシにして、ガイに何か言わせようと目論んでいるのだろう。

「さ、戻るか。」
「そうですね。」

暖炉のある大広間へ戻ると、これまた中途半端な位置に突っ立っている人物が目に入った。

「ルーク、何やってるんだ?」
「あーガイ。俺も今来たとこなんだけど、ナタリアが寝ちゃってて、隣座るのも気まずいっつーか。起こすのも悪いし。」
「ほう。」

隣の反応が妙なのが気にかかる。見ると、ジェイドはズカズカとナタリアのいる方へ歩いていき、何の遠慮も無しにその寝顔を観察しはじめているではないか。

「オイ、それは失礼だろう。」

慌てて止めるが、ジェイドは少しも悪びれた様子を見せない。

「何をしようって訳じゃありませんから。」
「だけどジェイド、それはハンザイだ。」
「失礼な。こんな大広間で寝息をたてている方に問題があると思いませんか?現にルーク、あなたが困っていたんでしょう。」
「お、俺はそんなつもり……ナタリアも黙ってればキレイなのになー……って」
「ええ。普段賑やかな分、意外性がありますね。ガイはどうです?」

ここで何を言えと言うんだ。とてもそんな会話に参加できる気分ではないが、平常心を崩してはジェイドの思うつぼだ。

「悪趣味だぞ。」
「おや、ノリが悪いですね。」

もし、これがティアやアニスに関する話題であったら、ガイも何か言っていたかもしれない。逆に不自然に見えたと言うことか。しかし、そうまじまじと彼女を見られていると言うのは良い気分ではないのだ。そんなガイの心のうちをわかってやっているのだろうから、本当に趣味が悪い。

「あのな……いい加減、……ん?」

毛布を掴んでガイも近寄るが、それはナタリアの手前で遮られた。

「あなたは掛けられないでしょう。かわりますよ。」

ジェイドがニコリと笑みをつくる。あたかもガイのためを装っている。

「いつ起きるかわかりませんからね。いきなり飛びつかれるかもしれないでしょう。」
「一体ナタリアを何だと……。ナタリア。」

毛布をかけるのはやめた。声をかけると、まつ毛が揺れ、ナタリアがうっすらと目を開く。

「こんなところで寝たら風邪ひくよ。」
「部屋に戻ります。」
「そうだね。はい、立って。」

立ち上がろうとするナタリアに手を貸す。まだ夢からさめていないようなので、そのまま連れて行くことにした。背を押し歩くよう促していると、一連の行動を目を丸くして見ていたルークが口を開く。

「え、おい、触って平気なのか?」
「これは人命救助だ。」
「は?」
「ルーク、あなたから守るための人命救助だそうです。」
「俺はなんにもしてねーって!」

人命救助なら私も手伝いますわ。目を閉じたまま言うナタリアをなだめながら、ジェイドを横目で見る。

「これで満足か。」
「何のことです。」

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