壮絶に荒らされた調理場。そういえば、今日はナタリアが料理当番の日であった。包丁片手に食材と戦闘モードに入っているナタリア。これは危ない。慌てて止めに入り、奇妙な物体を見つける。
「これ何?何作ったの?」
「これから作るところですわ。食材を並べているうちに少し散らかってしまって」
「少し?」
呆れた視線を送ると、ナタリアがたじろぐ。本人も自覚はあるのである。
「今日は料理したい気分だったから、私が作っちゃおうかなー。ナタリア、交代しようよ。」
強引にナタリアを調理場から押し出す。まだ彼女独特の味付けがなされていないのなら、食材が無事であるのならばなんとか挽回できる。多分。ふーっとため息をつき、今日の献立を考える。無事助かった残りの食材で調理できる物……
「ナタリア、こんな所で何してるんだ?」
こんな所、……調理場。普段よりも強張った声だが、これはガイの声だ。なめてもらっては困る。あの二人の雰囲気は怪しい、とアニスは常々思っていたのだ。二人きりの会話を聞き逃すわけにはいかない。調理の手は休めずに、耳を澄ました。
「アニスに料理を代わってもらった所です。」
「ああ、そうなんだ。」
「皆に怯えられているようではダメですわ。なんとか改善しなくては……。どこかに料理を教えるのがとても上手い達人はいませんの?」
「どうかなあ。」
「私は真剣に聞いていますのよ。」
達人……料理はナタリアにとって、過酷な鍛錬が必要なものと言う認識らしい。達人なんて言われたらアニスはそれだけで思う存分遊べてしまうのに、ガイはナタリアのボケで遊びもしないし否定もしない。かといって呆れていると言うのもまた違う気がする。相変わらずだと思っている?もしかして、相変わらず可愛いとか思ってる?天然が好きな男って、いるもんね。まあナタリアのは本当に天然だから、いいんだけど。
「なんでそんなに料理が上手くなりたいんだい?」
「……え?なんでと言われても……、できるにこしたことはないでしょう?」
「キミは完璧主義だよね。負けず嫌いと言うか。誰だって苦手なことくらいあるさ。全部自分でやろうと思わなくていい。」
「あなたも被害を被るのですよ?」
「そんなに自分をおとしめるなよ。」
口を尖らせるナタリアと、苦笑するガイが目に浮かぶ。ナタリアって、料理ができないこと結構気にしてるんだな。いつもは何にでも自信満々なのに。
「全部自分でできないと不安?俺達の事が信用できない?」
「そんなことはありません。信用しています。」
「それなら、料理は他の人にやってもらえば平気。アニスとか、上手だろう?俺もティアもジェイドもそれなりにできるんだ。城を出た今だって4人も料理人がいるじゃないか。」
「料理人だなんて言ったら大佐は怒って戦わなくなりますわよ。」
「信用していない訳ではないのですけど、私だけ何もしないというのも……」
「じゃあこれからは、何が食べたいか言ってくれない?献立考えるの、結構困るんだよな。食べたいもの言われて作る方が楽なんだ。その方が喜んでもらえるし。」
「まったく、あなたは……」
これが全部、食生活の安全確保のためのセリフであったら相当な役者である。ガイの事だから、心からナタリアを励ましたいと言う気持ちも多分に入っているのだろう。
「ではせめて、買い物には私が行きます。」
「うん。助かるけど、行くときは俺も行くよ。ひとりに荷物は持たせられないからね。」
「でしたらー…、あなたが女性とコミュニケーションをはからなければいけない時の仲介をしようかしら?」
「……いいけどキミも女性だよね。」
ここまで優しくされても心を奪われないナタリアだからこそ、ガイも思う存分面倒を見られるってこと?どうして二人とも、これが特別な感情であると捉えないんだろう。特にナタリア。幼馴染だから?ガイが女性恐怖症だから?なんでそんなややこしい症状持ちなんだか。もったいないので、目下観察対象である。
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