久々に女性陣三人で町に出向く。話題は自然と色恋の分野にうつり、すでにアニスとナタリアから尋問のような追究を受けたティアは耐え切れずうつむいてしまっていた。会話に熱中していたため手付かずだったケーキを頬張りながら、アニスがナタリアに哀れむような視線を送ってくる。
「まぁ、聞かなくてもそっちは相変わらずだよね」
「ガイはがんばっていますわ」
「手ぇつなぐので精一杯なんでしょ」
あまりに呆れた顔をするので、そんなことはないとつい口に出してしまった。
「いつの話をしていますの?」
「え?な〜に!?何かあるなら先に言ってよ!」
途端に態度をかえるアニスを横目に、姿勢をただし紅茶を一口含んでみせる。
「もったいぶらないで、はやく!」
「仕方ありませんわね。」
アニスとナタリアのやり取りを見ていたティアが、やっと顔をあげ笑いを漏らす。全員そろったところで、よろしいですか、と確認しナタリアは口を開いた。
「先日、料理の邪魔になるからと追いやられたことがあったでしょう」
「仕方がないので甲板へ行ったんです。そうしたら先にガイが来ていたようで私は彼の所にかけよろうとしましたわ。」
「でも、突然突風が吹いてふらついてしまいましたの。倒れそうになる私をガイが抱きとめてくれて。彼はその……女性に触れられないでしょう。ですから慌てて身を離そうとしたんですのよ。それなのにガイが今なら大丈夫そうだから、動かないで、と言って頬に手を寄せて」
「青空の下、アルビオールの甲板でキスとは……どこまでも格好付けるね、ガイは」
「そんな余裕なかったんじゃないかしら……でも、ナタリアもガイも、普段から並んでいるだけで絵になるわ」
「ただ、それからと言うものの急に歯止めがなくなったようで」
「えっなにな」
アニスがいよいよと身を乗り出したところで、それをさえぎるように後ろから派手な音が響き、一気に周辺の視線を集める。
「もう、勘弁してくれ……」
うなだれていてもわかる程顔を真っ赤にさせたガイが、机に手を付き辛うじて立ち上がっているようだった。座っていたらしいイスは勢いで後ろにとばされ倒れている。
「まあ!いらしていたの?」
驚きで開いた口を無意識に持ち上がった右手で隠す。斜め前のアニスが舌打ちするのを、ナタリアは聞いていない。
「あなたたち3人が揃ってお茶なんて珍しいですわね」
見ると、素知らぬ顔でお茶をすするジェイドと、心なしか顔を赤らめたルーク、先程の体勢で固まったままのガイが一つのテーブルを囲んでいた。反応のない彼らに、ナタリアは席を立ち歩み寄る。
「顔が真っ赤ですけれど……熱でも?」
額へ差し出した手にピクリとガイが反応し、ナタリアの手首を掴む。
「うん、多分熱だ。休まないと。すまないけど先に失礼しよう」
早口でそれだけ言うと、ナタリアの手をとったまま足早に店を出る。
「そんなにひどいのなら、医師を呼んだほうが」
「いや、それは平気」
とりあえず落ち着け、などと一人で呟くガイは冷えた夜風にあたってもまだ顔を赤くしておりナタリアが浮かべる疑問符は一つ二つと増え続けた。
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