標的にしていたルークは、何か気付かない?と聞いてもうなるばかりで、仕方がないのでアニスは自分から打ち明けた。
「そんなもん、気付くか!」
「ガイは気付いてくれたもん。ルークはまだまだ乙女心がわかってないな。そんなんじゃすぐティアにも愛想つかされちゃうよ」
たった一つの文句に二つも三つも反論され、ルークが尻込みする。それを見て不憫に思ったのか、少し離れた位置にいたガイが会話に参加してきた。
「いつもと印象が違ったからな」
「さっすがガイ!」
お望みどおり標的をガイに切り替え、黄色い声をあげ飛びつこうと駆け出す。ところが、この後の動きを察知したガイは隣に控えるナタリアを盾に身を隠してしまった。長身を隠しきれていないものの、捕まえるには彼女を柱に追いかけっこが始まりそうだ。それは面倒くさい。ほんの数秒のうちにそう考えた結果、何故かアニスはナタリアに抱きついていた。自分自身に疑問を投げかけつつ、女性ならではの柔らかい感触と香りに頬をすりよせてみる。なるほど、これはこれは。
「言われてみればそう言う気もしますけど……私も気付いていませんでしたわ」
ごめんなさいアニス、と少し上から声がかかる。
「まあいいんだけど。前髪切っただけだし」
アニス自慢の黒髪をナタリアの細い指がとく。実は、ナタリアが度々この髪を綺麗だと言ってくれるのが純粋に嬉しかったりする。
「もう少し、感づくようになりませんと」
「でも、それはそれでいいと思う」
「どうして?」
お、めずらしくナタリアが「ですの」「ますの」言わない、と顔をあげる。眼差しはガイに向けられていた。
「見目だけでなくて、内面を好いてくれているような気がしないか」
一瞬アニスまでほだされそうになり、そんな自分を戒めるつもりで抗議の声をあげた。
「そんなの男の言い訳だよ!」
「ものは言いよう、ですね」
「はは、手厳しいな」
どこからかあらわれた大佐も加わり、ガイが降参と手をあげる。ただ、その中でナタリアだけは未だ目を丸くしていてガイが声を出すでもなく表情だけでどうしたと聞くのが見えた。それも素敵ですわね、と言ってナタリアが微笑む。ガイもそれを見て微笑む。
……二人の世界を覗き見してしまった。
しばし茫然としていると、あ、と思い出したようにナタリアがアニスを見る。
「いつまで抱きついていますの?」
「伯爵様が、引き離すまで」
ナタリアと同時にガイを見ると肝心の王子様役が勘弁してくれと震えていた。いい子ぶったって、わかっている。本当は今すぐにでも彼女に近づく人物を引きはがして自分の腕の中に抱きとめたいと、きっと二人はそんな恋をしている。
なぁんて。
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