これはなんと称せば良いのだろう。ナタリアは答えがわかっていたので、そんなものが自分の中に存在してはいけないと葛藤を続けていた。自ら嫌悪感を抱くほど、この感情は醜い。視線の先には数人の女性と、彼女達に囲まれ身動きを取れずにいる男が見えた。ナタリアが彼の名前をひと呼びすれば、周りの女性達は騒ぎ立てるのをやめる。そうすれば彼は解放され、ナタリアの不満はひとつ解消されるのだが、同時に後ろめたい気持ちになり、きっとナタリアは礼を言う彼を一睨みしてしまう。
「どうして私がそんな役を買って出なければなりませんの。」
彼が飲み物を買ってくると言うので待っていたが、それがナタリアの元へやってくるまで辛抱できそうになかったので助けを求める彼の視線に呆れたふりをして一人で帰路についた。
「私、さっぱりした物が飲みたい気分ですの」
彼が手元に持っていたミルクティーを思い出して呟く。帰ってきたらなんと言おうか、冷えた頭で考えるのだ。それなのに5分もしないうちに扉が開き、ナタリアはまだ言い訳が思いついていないと勝手な想いを不満リストに付け加えた。
「一人で帰らせてしまって、ごめん。」
遠のく意識の中で、ベンチに荷物しかいない事に気づき慌てて追ってきたのだと言う。
「ごめんなさい。すっかり荷物の事を忘れていましたわ」
「かまわないよ。……ソーダなんて珍しいな」
「あなたが知らないだけではなくて。普段から飲んでいます」
彼がナタリアの置いていたコップを揺らす手を止める。不自然に途切れる会話には、彼もナタリアも慣れていない。
「飲み物を買って来てくださったんでしょう」
半分も飲んでいないコップを押しやり、彼の手元で揺れていたミルクティーをさらうとごく自然な仕草でガイは除けられた方を引き寄せる。
「お怒りの原因をお聞きしてよろしいですか」
「その話し方は余計癪に障りますわ」
「……悪い」
謝られても物事は解決しそうに無く、ナタリアは仕方なしに会話を続ける。
「どうやってあの輪を抜けてきたのです?」
「頭が真白になって気がついたらここにいた」
街中でその俊足を披露する彼を想像し笑いが漏れた。この飲み物はよく無事なまま辿りついたものだ。
「笑い事じゃない」
その真剣な言い方が、余計笑いを誘う。
「私はこのところ、できの悪い子供と戦っていますの。ですから少し苛立っていますけれど、あなたには関係ありませんわ」
「いつまでたっても克服できない俺のことかい?」
「そんなあなたを非難する私の心の事です。」
ガイは何度か目を瞬くと、それがもし嫉妬やそう言う類のものだとしたらと前置きし、この場の空気に似合わぬ穏やかな表情をしてみせる。
「できの悪い子ではないと思うよ。その方が人間味があって好きだな」
ナタリアはその件について一人でああでもないこうでもないと頭を使っていたのにあっさりとそれも良いと言われ、答えはわかっているのに認めるのを渋りたくなった。
「あなたの好みが全くもってわかりませんわ」
そんなあなたのことは好きですけれども。
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