広い書庫にいる人はまばらで、ナタリアの姿を見つけたガイはあえて遠くの席に腰掛けるのも不自然だと思い彼女の向かい側に腰を落ち着けた。有難いことに机は広く、ただ手を伸ばすだけでは触れる事もできない距離だった。声をかけようとして、その瞳が閉じられている事に気付く。これがルークだったら、珍しく勉強なんてするからと言えるのだが彼女がそうすると疲れがたまっているのではと心配になる。強行軍が続き疲労するのはあたりまえだと言うのに、いつも彼女は大丈夫だと言い張りガイを苦笑させる。どこからか吹き込んだ風が彼女の読みかけの本をめくろうとしている。
気になって身を乗り出し本を引き寄せた。これはなんだと表紙を見る……『オールドラントの動物百選』
「……なんだ、これ」
内容を確認する前と同じ疑問が口を出た。開いていたページを見ると、ガイとは切っても切れない動物の写真で一面埋められている。読み進めると彼らの生態、基本的な飼い方から好む音楽など、今ここで手にしない限り知ることはなかったであろう知識が網羅されていた。読み終えて、今日三度目の同じ疑問を口にする。
「なんでこんな物を」
規則正しい呼吸を繰り返していた彼女が一瞬ぴくりと反応し、意識を取り戻し顔を上げる。
「わたくしは……」
「お目覚めですか」
笑み、ナタリアを見る。彼女は一番にガイを見、次に手元を見て自分の読んでいた本がガイの手に渡っている事に気がついた。慌てて立ち上がり本を取り上げる。
「読んでいませんわよね?」
「ブウサギのところしか見てない」
しばしの沈黙の後、ナタリアがガイに鋭い眼光を向ける。ガイがその迫力にしりごみすると、彼女はため息をついて椅子に座りなおした。こちらから疑問を投げかける前に、彼女が話をはじめる。
「あなたが知らないことを、私が教えて差し上げようと思ったのです。私は、いつもあなたに教わってばかりですから。」
本当に感謝していますの、と呟くように言う。ガイが当惑して目を見開いていると、彼女はそのうちに微笑からむくれ顔へと表情を変える。
「でもまた調べなおしです」
「そんなことしなくたっていいのに」
「私がそうしたいのです」
伏せ目がちに微笑む姿はとても綺麗で目を奪われた。
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