日進月歩

ガイ・ナタリア・ルーク

「「ガイ!」」

ドタバタと騒々しい音を立て、ガイの元へ二人の訪問者がやってきた。ルークとナタリアだ。詰め寄ってくる二人を交互に見て、どうしたのかと問う。 身長の関係で、同じような高さから見上げてくる二人を見下ろすことになるのだが、このパターン、以前にも体験した覚えがある。確か、その頃はルークよりもナタリアの方が背が高かった。ルークは、そのうちうんと背が伸びてナタリアなんか見下ろしてやると言っていたが、なんとか彼女の背を越した今でも見下ろせる程の差はできていないように思う。

「闘技場、ガイも行くだろ?」
「ああ、別にかまわな」
「ルーク!その言い方はずるいですわ!」

先手必勝とばかりに切り出すルークを、ナタリアが制止する。あまりの剣幕に驚いて彼女を見る。思い出した。公爵家に勤めていた頃の話だ。ルークとナタリアはよくどちらが良いだの、悪いだのと意見が対立し、判定をガイに求める事が多々あった。今もガイを睨む目の前の二人に、幼い頃の二人の映像がダブる。幼い彼らのあまりにも懸命な眼差しに思わず笑みがこぼれ、ルークとナタリアが同時に首を傾げる。

「昔もよく、こんな場面があったなと思ってね」
「あったか?」

そういえばその頃はなんと返答していたのだろうか。思い出そうと顎に手を当て考えていると、ナタリアが悔しそうに唇をかみ、視線を落とすのが見えた。

「聞く人物を間違えましたわ。ガイはいつだってルークの味方でしたもの」
「そうだった?」
「私、しっかり覚えていますわ。毎回ルークの希望が優先されますの。」

覚えが無いと言う表情でルークと目を合わせる。

「そういうことなら、ルーク。闘技場はなしだな」
「はぁ?お前、演劇なんて見たいのかよ?」
「嫌なら、お前はティアたちと闘技場に行けばいいだろ?」

人数は足りるはずだと付け加えると、即座に納得したルークが踵を返す。まるで何事もなかったかのようなルークとガイの解決策に、ナタリアが一人目を丸くする。

「良かったんですの?」
「たまにはいいんじゃないか」
「でも、ガイに断られるなんて初めてでしょう?ショックを受けているかもしれませんわ」

自分が今までその立場だっただけに、ルークが可哀想だと言う気持ちがあるようだ。まごつき、ルークを放ってしまって良いのかと言うナタリアに大丈夫だと一声かける。

「男の友情はそれくらいのことで揺らがないさ。女性の誘いを断るわけにもいかないしね」

あっさりと彼女の杞憂に返すと、ナタリアがいつもの調子を取り戻して口を尖らせる。

「散々断っておいてなんです」
「あの頃はまだまだ子供だったじゃないか。子供に手は出せないよ。」
「手を出すって……、あなた、どうせ女性には手出しできないじゃありませんの」

呆れて言うナタリアを見返そうと、屈んで顔を近づける。一瞬の出来事にナタリアが大きな目を更に見開き、後ずさりする。いつもと逆だねと言ってから顔を離して方向転換をし、劇場はどっちだったかと首をひねる。ここからだとあの角を右折して行くのが一番早いと最短のルートを考え振り返ると赤面したナタリアが先程の体勢のまま固まっている。

「そろそろ行かないと間に合わないよ」
「……っ、お待ちなさい!」
「はいはい。おひめさま。」

はじかれたように反応し、ナタリアがガイの背を追う。ガイは彼女が来るのを待って、片手を用意する。仕返しとばかりに彼女が強く手を握るので、少し冷や汗が流れたが、握り返す頃には何も気にならなくなっていた。

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