「その衣装、気に入っているみたいだね」
「ええ、いつもと違う自分になりきると言うのも面白いですわよ」
ナタリアは、先日手に入れた胸元の大きく開いた衣装を着ている。目のやり場に困るそれに、男性陣は、なかでもガイは気が気でない。何故こんな事になったのかと遡って考えてみた所、彼女の為を思って自分が発した一言に辿りつき、ガイは更に頭を抱えた。
「えーっと、いつもより素肌が出ていて寒くないかい?」
「今までより温かいくらいですわ。足が隠れていますもの。ガイは本当に女性への気遣いを忘れませんのね。」
ナタリアはガイの言葉を自分を気遣っての発言と受け取り、上機嫌に微笑む。曖昧に笑顔を返し、彼女の機嫌を損ねず問題を解決する術を探す。
「でも、それじゃあ戦いにくいだろう?」
「何故です?身動きはとれます。」
そんな格好で動き回って、もしずれたら、と言う考えは微塵も無いようだ。王族云々以前に、彼女はうら若い女性なのである。これほど無頓着と言うのは問題だ。心の中で呻きながら額に手を当てていると、それを不思議そうに見ていたナタリアの表情が段々と変化する。眉を吊り上げ両手を腰に当てるのは彼女が標的を叱咤する際の合図だ。
「先程から何なのです?似合わないと言いたいんですの?」
「いいや、すごく似合ってるよ。でも、少し露出が多くて危ないんじゃないかと……」
「アニスもおへそを出していますし、ティアに至っては水着を着ていますのよ。なんで他の二人には何の文句も言わないで、私にだけ言うのです!」
壁を背にしていた所為で逃げ場のないガイに、ナタリアが詰め寄る。こうしてすぐに壁に寄りかかる癖を彼女は快く思っていないので、自業自得だと言いたげだ。引き合いに出されたアニスとティアも、突然指を差され戸惑っている。一気に注目を集めてしまい、両手を上げる情けない姿をさらす事になった。次にガイが小声でもらす一言も、追い討ちのようにナタリアの耳に入り彼女を怒らせる原因となる。
「それは、担当が違うって言うか……」
「担当?」
「あ、いや……」
「勘違いしているようなので言っておきますけれど。あなたはルークの子守役でも、私の子守役ではありませんわ!私は、自分の衣装くらい自分で決められます!」
より一層声をあげ言い終えると、ナタリアが外方を向く。完全に機嫌を損ねさせてしまった。
「あなたも大概偏執狂ですね」
一連の掛け合いを傍観していたジェイドが、やれやれと、これまたわざとらしい仕草で言う。
「大佐みたいなやり方は俺の性に合わないんだよ。」
癪に障り負けじと言い返したが、長引けば徹底的にやり込められるのはわかっているので距離を置き会話は終わりだと示す。横に控えていたアニスが折角のからかいの機会を逃したと不満顔をしていた。
「おやおや。暗に嫌なやつだと言われてしまいました。」
「大佐だったらなんて言ったんですかぁ?」
「そんなにお腹を出した格好で寒帯気候の地に向かうつもりですか?熱を出されても倒れられても迷惑ですから、他の服に着替えた方が懸命だと思いますよ。雪原に一人置いていって良いと言うならかまいませんが。」
まったく困ります、と芝居がかった仕草と表情でジェイドが淡々と言う。アニスは言われた言葉を少し考えてから、閃き不服を訴える。
「それって、もしかして私に言ってます?」
「あはははは。どうでしょうねぇ」
白々しく笑うジェイドを眺めていたティアは、ルークが同様にジェイドを見ていた事に気が付く。しかしその表情は驚くほど真剣で、どうしたのと問いかけようとして口を開きかけたときにルークがティアの方を見た。
「なあティア、やっぱり水着はスパの中だけにした方がいいんじゃないかと思うんだけど」
「私もそうは思っていたけど、いきなりどうしたの、ルーク?」
予想外の発言に目を丸くし問うと、ルークは言いにくそうに視線をそらす。
「いや……担当って言ったら、俺はティアが担当なのかって思って」
「な、な、なんなのよそれは!」
知らぬ間に周りに飛び火している。まいったなと思いガイは頭を掻く。同じように周囲を観察していたナタリアが小首をかしげていていたが、ガイの視線に気付くと思い出したように膨れて鋭い視線を向けてきた。ああ、まずは何よりも彼女から。
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