不協和音程

ガイ・ナタリア・ルーク

先刻から、背後に痛いくらいの視線を感じている。一体なんだと思い振り返っても、後ろには仲間達が歩く風景しか見えない。気のせいかと思って前になおると、また何か嫌な視線を感じる。

「俺、何かしたっけ?」
「どうかしましたの、ルーク?」

後ろを歩いていたナタリアが、ルークの傍に駆け寄り心配そうに窺ってくる。

「よくわかんないんだけど、さっきから背後に視線を感じるんだ」
「敵ですの?」
「うーん。魔物って感じじゃねーんだけど……」

腕組みをして考えてみる。隣のナタリアも顎に手を当て思案する様子を見せる。

「確か今日はナム孤島に入って」
「ゲームで遊んでいらしたでしょう?」
「ああ。漆黒のなんとかに会って」
「衣装部屋にも忍び込みましたわね」

あの島は言わば小さな遊園地だ。可笑しな飾りや普段見る事のない装置で溢れており、好奇心の沸き起こるまま手を出していた。もしや、その中に触れてはならない物でもあったのだろうか。しかし、何をいじったか全ての経緯を述べろと言われても、いかんせん数が多すぎて思い出せそうにない。

「他には―…」
「ナタリアを砂まみれにしたろ?」

知らぬ間にガイが加わり、ルークを真ん中にお馴染みの三人組が揃う。

「そうですわ!されました」
「もう平気かい?」
「ええ。まだ少しくすぐったい気はしますけれど」

ルーク越しに、まるでルークが悪いかのように二人が会話をしている。

「いや、あれは俺じゃなくてありじこくにんだろ!」

反論しようとナタリアの方を見るが、目が合いお互い気まずい空気が流れる。

「……先程のアレは、本当の事を恥ずかしくて言えなかっただけですわよね?」
「本当の事?」
「いいのです!仰らなくてもわかりますわ。ティアには早めにフォローなさい」

何を一人で納得したのか、ナタリアがルークたちの傍を離れ、先を歩く仲間達の所へ駆けていく。

「フォローって言われてもなぁ」
「本当に、ナタリアが1番大切だからフォローのしようがないって?」
「そんなわけ!いや、別にナタリアがどうとかじゃなくってさ……ガイならわかるだろ?」

理解ある親友に同意を求めようと隣を見るが、どうも反応が悪い。

「どうかねぇ。わかるように教えてくれないか」
「なんだよガイまで。何か言葉に棘があるよな」

口にしてから、普段よりガイが穏やかでない事に気がついた。

「俺、なんかやったか……?」

もしやと思い問うと、ガイが歩みを止めルークを見据える。あまりに真剣な顔をするので、何を言われるのか無意識に身構える。自分は何かまだガイの恨みを買うようなことをしているのだろうか。しかし次のガイの言葉で、それはただの杞憂だったのだと知る。

「お前は、ナタリアの事が好きだったのか?今まで全然そんな素振りはみせなかったじゃないか。親友の俺にまで隠して……」

意表を突かれ、なんて誤解をされているのだと慌てて弁解をする。

「待てって!あれはただ、あの中で誰がって言われた時、皆大切で決められないと思って……たまたまナタリアが近くにいて目に入ったから、ナタリアも大切だよなって思って」
「じゃあ、別に深い意味はないのか?」
「ないよ」

滅多に感じることの無い気迫に、やや気圧されながら答えると、ガイは満足気に頷きルークの頭をポンポンと叩く。

「そうか。そうだよな。さ、早く行かないとジェイドの嫌味の餌食になるぞ」
「ああ、うん?」

駆けるガイの後ろを追い、どうしてこんな話題になったのだろうと思いをめぐらせる。そうだ、最初は異様な視線の原因を考えていた。だが、今は何について考えていたのか忘れてしまうほどだ。視線も何も感じない。この数分で何か解決したのだろうか。それともただの気のせいだったのだろうか。

「もう何も感じないし、いいか。」
「自分の事にも疎い人には、まだ難しいかもしれませんねぇ」
「わっ、ジェイド、いつの間に隣に…!?て言うか、疎いってなんだよ。皆して変な事言って……」
「いやですねぇ。あなたが走って追い越したんでしょう」

真面目に相手をしては疲れてしまうので、最近は潔く抵抗を諦めるようにしている。それにしても、ジェイドにしろナタリアにしろ、本当に変な事を言う。飛びぬけて親友の言動がおかしかったのが気になるが、ルークがそれを理解するにはまだまだ時間がかかりそうだ。


postscript
バチカル組が好きです!