ウェイターロマンス

ガイ×ナタリア

※18歳で成人の儀を執り行うと言う仮設定でした。普通に20歳でしたね。見逃してください。

以前、恐怖症を克服するためと言う名目で手に入れた衣服を身にまとい、どう言う訳か、ガイはウエイターの真似事をしている。女性一同の頑なな希望と、それを面白がる面々に囲まれ、なす術が無かったのだ。

「じゃあ、アニスちゃんは〜」
「あと5年たったらな」
「ぶ〜ぶ〜」
「はいはい。」

目の前で酒を出すようせがむアニスは、時々驚く程大人びた考え方をするが、まだ成人には程遠い。とはいえ彼女は少々特殊で、今もその可愛らしい外見に似合わず腹の内ではどうやってガイの手からそれを奪い取ろうかと策を練っているのだろう。そう思うと、やはり女性は恐ろしいと思う。しかし、だ。ガイが慕う女性はそう言う腹黒さとは無縁の人物のように思える。もしも、こうやってガイに心を許させる事も含めた全てが彼女の策略だとしたら、どうかそのまま騙しておいて欲しい。今更彼女以外の人物を想う自分と言うのは想像し難い。カウンターを見回すと、当初と比べ参加者が減っていた。ルークとティアは酒を飲めない年齢なので早々に引き上げたのだろうが、目の前のアニスとジェイドの他に、先程までいたはずのナタリアが見当たらない。ガイの意図に気付いたのか、アニスとジェイドがカウンターの一箇所を指差す。見ると、ナタリアがカウンターに突っ伏していた。

「……ナタリア?」

確認のために名前を呼ぶと、ナタリアは伏せていた顔を少しだけ上げガイを見る。

「なんですの」

あきらかに隙間から見える肌が赤くなっている。彼女は酒に弱いタイプではないし、こちらも注意して軽い物しか出していない。一体どうしてしまったのか。

「今日はこのくらいで止めておこうか」
「どうして?」

カウンターに身を乗り出した格好で彼女の顔を覗き込むと、講義の目で訴えてくる。仕方なしにグラスと彼女を引き離そうと手を出すと、ナタリアはまるで駄々をこねる子供のように両手でグラスを持ち、離そうとしない。どうしたものかと考えていると、彼女の頭がまたカウンターに沈んでいく。

「今のうちにつれてっちゃえば?」
「それが良さそうですね。私はアニスに注いでもらえますし」
「任せてください大佐v」

この二人の言いなりと言うのも難だが、そうした方が懸命だろう。突っ伏す彼女をどう運ぼうか考え、俗に言うお姫様抱っこに落ち着いた。

「この男、ほんとやる事がなんて言うか……」
「天性のキザ男ですね」
「他にどう運べって言うんだ」

真っ直ぐに彼女の泊まる予定の部屋へ向かう。幸い人に目撃されることなく彼女を部屋に運び込むことができた。因みに、今回は宿主の好意で用意された客室で、一人一部屋を与えられている。広々とした部屋の窓際にベッドが用意されており、そこまで彼女を運び横たえた。

「ふう……。おかしいよな。絶対ジェイドの仕業だ。」

ジェイドは随分と強い酒を自分で注いでいたから、ガイが他所を見ていた隙にそれをナタリアに飲ませでもしたのだろう。策略だとわかっていながら放っておけないのは、最早治る見込みのないガイの習性だ。一応薬でも飲ませておいた方がいいだろうか、そう思い部屋を探す。水差しとコップを手に戻ると、いつの間にかナタリアが目を覚ましていた。

「ガイ、」

いつもより若干か細い声で呼ばれ、傍に寄る。手を差し出してきたので、その手を取る。――刹那、強い力で腕を引かれ、気がつけばガイはベッドに引き込まれていた。身体を起こしてはいるものの、腹の辺りにしっかりと彼女が座っている。茫然として、妖艶に微笑む彼女が口付けてくるのをそのまま受け入れた。そして、普段の彼女からはまず起こりえない、舌までも絡むキスを交わす。それこそ、酔ってしまいそうな雰囲気にふと我に帰る。

「この状態はちょっと、マズイと思うよ。わかるよね?」
「女性に恥をかかせるのですか?」
「いや、これが普通の時だったら大歓迎なんだけど、……!」

ガイの言い分は無視することに決めたらしい。ナタリアがガイのシャツのボタンに手をかけ始める。

「ナタリア」

少し強い口調で呼ぶと、今度はナタリアが上目遣いで見つめてくる。

「私の事を嫌いになってしまったのですか?」
「そんなことは、ないよ」

健康的な青年として、当然心が揺らぐ。けれども、こんな状態で何か事があるなど普段のナタリアは絶対に良しとしない。彼女の信頼を裏切ることはガイの本意でないのだ。悶々として、なすがままになっていると、不意に胸元に彼女の重みがかかる。よく見てみると、なんとナタリアが気持ち良さそうに寝息をたてはじめていた。どうやら彼女は話しかけさえしなければすぐに眠りに落ちてしまう性質らしい。

――今はそんな分析はどうでも良い。

彼女に抗議したい事は多々あるが、また起こすと面倒な事になるのは目に見えている。自然とガイもこの体勢のまま眠らなければならない事になり、葛藤の末、彼がやっと眠りについたのは時計の針が大きく進んだ後だった。



翌朝。

ガイが目を覚ますと、胸の上の物体がびくりと身体を強張らせる。ナタリアの方が先に目覚めていたらしい。顔色も良く、二日酔いにはならずにすんだようだ。

「私、きのう、」
「昨日の事、覚えてる?」

問うと一気に顔を真っ赤にする。

「覚えてるのか。」
「……すこし」

だとしたら、彼女にはガイの健闘を褒めてもらわなければならない。否、言葉で褒めてもらおうなどと考えてはいない。

「じゃあ、」
「…ガイ、何をする気です?」
「誤解されたままなのは嫌だからね。愛してるってことを充分に伝えておかないと」

逃げようとする彼女を捕まえ、髪を除け耳にかける。

「私は、誤解など……」
「ああいう時って、潜在的に押さえ付けていた感情が出るんだよ」

耳元でそう言うと、ついに抵抗できなくなったナタリアが逃げるのをやめる。負い目がある分、彼女も今回ばかりは強く反論できないのだ。何時間にも及んだ忍耐から、ようやく解放される―



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キリバン作品