親愛なるナタリア様
ご機嫌麗しゅう。貴方の働きぶりは遠いこの地でも耳にしています。あまり沢山の事を抱えこんで体調を崩されませんよう。忙しい貴方の事です。この手紙をいつ読んで頂けるのかわからないので、少々せっかちな話題になることをお許し下さい。
次のレムの月のナタリア様の誕生日を控え、私からもささやかながら何か贈り物を出来ればと考えております。何かご所望の品はございますか?貴方の周りに控える方々のように豪華絢爛な贈り物は出来ませんが、少しでも喜んで頂くためにとこうして手紙を認めさせて頂きました。
―この手紙はきっと貴方の目に触れる前に検査を受けるのでしょうね―
ガイ・セシル
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ガイへ
お手紙ありがとうございました。あなたが察していたように、私はあなたからの手紙をつい先程受取りました。返事が随分と遅れてしまい申し訳ありません。検査の者にはあなたからの手紙には目を通さないよう言っておきましたから、もうあのような文面になさらなくても結構ですわよ。贈り物の件ですが、これと言って欲しい物が思い浮かびませんでしたの。ただ久しぶりにあなたと会ってお話できればこれ程幸せな事はありませんわ。最近はどうしていますか?
今年の私の誕生日はプリンセスナタリア号での誕生日パーティーが予定されています。都合がついたら是非あなたもお越しください。他の皆にも招待状を送るつもりなのですけれど、皆忙しくしているのでしょうね。いつかまたあの6人で集える日が来ると良いですわね。
ナタリア
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ガイの言っていた通り、何重にも検査を受けたその手紙は、長い検査で時間をとり、その上各地を飛び回るナタリアの帰城を待って手渡されることになり、ほんの数日前にナタリアの元へ届いた。急いで返事を送ったものの、彼からの返信が間に合う日数ではなかったし、彼の手元にナタリアからの手紙が届いているのかさえ危うい。
一体どうなっただろうか。分かる術もないままパーティー当日を迎えた。今日の為に作られたドレスを見に纏い、鏡を見てみる。今ひとつ腑に落ちない。メイドたちには既に退出するよう言ったので、一人になって考えてしまう事と言えばガイの事ばかりだ。ドアをトントンと叩く音が聞こえる。
「お迎えにあがりました」
「どうぞ。お入りなさい」
「失礼します」
今思えばどうして声を聞いて気付かなかったのだろう。扉の前で恭しく頭を下げ、胸の前に右手を構えているのはナタリアが今の今まで思いをはせていた男だった。
「ガイ!」
呼ぶと同時に駆け寄り、頭を上げたガイにそのまま飛びつく。その勢いに少しよろめきながらも、ガイはしっかりとナタリアを受け止めた。
「君はいつもそうやって迎えの者に挨拶するのか?」
「そんな事をするわけがないでしょう!」
「わかってる。おっと。ナタリア、あんまりはしゃぐとせっかくの召し物が乱れるよ。」
「かまいません」
「そんなに可愛い事を言うなよ。パーティーが終わるまでの辛抱だから」
ガイは口ではそう言っていたが、抱きとめた時に腰に回した手を離す気は全くないように感じた。一先ずはパーティーが始まるまでのこの時間を、今まで会えなかった時間を埋めるよう存分に楽しむしかない。
「そういえば、私からの手紙はとどいたのですか?来るのか来ないのかわからないので、気が気ではありませんでしたわ」
「一応返事を書いたんだけどね。手紙なんかより本人が来た方が嬉しいだろ」
「もちろんですわ」
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