Rule of white

アキとタカマハラの人達

「いらっしゃいませ!」

何度か注文を受けた事のある客の来訪に、アキは笑顔をつくって出迎えた。男はアキより5、6年上で、屋敷で雇っている衛兵のためと言ってよく剣の依頼に来る。依頼中も度々様子を見に訪れ、行き詰っている時は依頼の期限を調整してくれたり良い品が手に入ったお礼にと受け取るのをためらうような装飾品を送ってくれたりする。申し訳ないと思いながらも、感じの良い人と言う印象を受けていた。

「隣にいるのは……弟さん?」

男はアキの隣にいたミトシを弟と勘違いしたようで、ミトシが口をとがらせる。

「ミトシ君は弟じゃなくて、警備隊の……えーと、お友達です」
「可愛いお友達だね」

男のセリフにミトシは更に不機嫌になり、アキのかわりに前へ進み出た。

「アキ……仕事たくさん。今は依頼、受けられない」
「ミトシ君、依頼の内容を聞いてからじゃないと……」
「ダメ。アキ、がんばりすぎで全然休んでない。ご飯も抜いてるから、顔色良くない」

ミトシはアキの頬に優しく手を当て、紫水晶のような瞳でアキを見つめる。

「僕、アキのことちゃんと見てるから、すぐわかったよ?」
「ミトシ君……」

大人びた表情のミトシにアキは一瞬思考を止め、ミトシが口の端を持ち上げる。

「それなら心配いらない」

男は全く動じていないと言う顔で、アキの肩に手を置いた。顔をあげたアキと目をあわせ、にっこりと笑う。

「一緒に食事でもどうかと思って」
「私とですか?」

アキが返事をしようとするが、店の扉から漏れこんできた外光がそれを拒んだ。

「おっと。それは問題ありそうだ。ね、ウキツ?ほら、肩に手なんか置いちゃって油断ならないな〜」
「ああ。アキ、まさかホイホイついてく気じゃねーだろうな?つーか誰そいつ。」

現われたのはシンとウキツで、一方は物腰やわらかく、一方は無愛想さを増してた。

「お客さんです!そんな嫌味な言い方しなくたって、ご飯くらい良いじゃないですか」
「ご飯だけ、か。二人になったら豹変するんじゃねーの?」

ウキツが悪そうに笑い、アキはお客さんに失礼です、と言い返す。

「そんな事ないです。とっても優しい方なんですから」
「どこが?」
「よく様子を見にきてくれたり、差し入れを下さったり、納期をおまけして下さったり…」

目をそらさないウキツに畏縮して、アキの声が小さくなっていく。

「期限のばすって、それ、お前のためになんねーだろ」

もっともな意見だ。アキも感じていたことなので、言い返せずに黙りこんだ。

「他は俺もやってるから、っつーことは、俺もとっても優しいって事になんのか?」
「……それは、うーん……」
「お前、いい度胸してんな〜」

ウキツが片手をアキの方へやり、親指で右頬を、それ以外の指を左頬にあて、アキの顔をふにゃふにゃと動かす。アキは思うように制止の言葉を伝えることができず、それが周囲にはまるでじゃれついているように映ったようだった。やっとのことで逃れると、次に現れたのはシンで、正面からアキの肩に両手をおき視線をあわせる。

「ま、優しいだけがいい男じゃないって、アキちゃんもわかってると思うよ?やっぱり男は色気だよね」
「へ……?」
「あれ。まだわかんないかな〜。でも、心配しなくていいよ。すぐにわかるから」

シンはアキの前髪を除けるように手をやり、惚けるアキから目を離すと、振り返った。

「で、お客さん、何の用だっけ?」
「こいつが引き受けるのは鍛冶のみ」
「それ以外の用がある時は、僕たちを通して、ね?」
「そゆこと!俺達、剣の腕には自信があるんだ」
「魔術もね」
「素手でも十分だけどな」

3人に圧倒された男は、後ずさりするうちに店の戸に背中をぶつける。アキが状況を飲み込めずおろおろしていると、男は店を出て行ってしまった。

「あ、お客さん!」
「また来んのか?あれ」
「来るときは、知らせる。アキに危険が迫っている時は、必ず聞こえるから、平気」
「ミトシの星読みには、ほんと頭が上がらないよ。」
「3人とも、何一致団結してお客さんを追い払ってるんですか!」

アキの悲鳴にも似た声に、3人は目を瞬いた。

「客?あれが?」
「アキちゃん」

シンがアキの名を呼び、心配そうに顔をのぞき込んでアキを諭す。

「世の中、アキちゃんみたいに心のきれいな人間ばかりじゃないんだから、用心しなきゃ。男なんて何考えてるかわからない。ケダモノばっかりでしょ。」
「シンさんも男の人です……」
「あはは。また可愛いこと言って。……アキちゃんに言い寄りたくなる気持ちは理解できるけど、邪魔者は芽が出る前につんでおかないとね」

アキがさっぱりと言う顔をしてから、はっとして、得意先の機嫌を損ねた事に頭を抱え始めた。

「せっかく気に入ってくださってたかもしれないのに……」
「でも、お前の技術目当てじゃなかったろ?」
「私、ちゃんと依頼品は納めてました」
「いや、そりゃそうだろうけど向こうは」
「ひどい!ウキツさん、そんな風に言うなんてひどいです」

言いながら、アキはウキツから1歩も2歩も後ずさりする。

「…っておい、なんで逃げんだよ」
「男の人はケダモノだって、シンさんが」
「俺は良いんだよ!」

呆れながら怒鳴るウキツの両腕を、シンとミトシが後ろから捕らえていた。

「良くない」
「良くないよね〜」



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