「今夜は晩酌だ!」 「待ってました〜!」
高らかに宣言するカヤナと、それに同調する声がひとつ。アキ一人が反対の声を上げた。
「どうしてそうなるのよ〜」 「かたい事を言うな。こんなに寒い夜は酒でも飲まねばやってられないだろう?」 「そんなの知らないわよ……」
アキの声を無視して、カヤナは勝手に戸棚から瓶を持ち出してしまった。 二人の様子を遠目に眺めていたシンが、同様に戸棚をのぞき込みサゲツを取り出す。シンはアキと目が合うとあいまいに笑顔を作り、カヤナを追いかけた。カヤナの手から瓶を取り上げ、サゲツと取り替える。
「カヤナちゃんはこっちね」 「……仕方ない」
アキはため息をついて、摘み物を用意すると、並んで座る二人の正面に座った。最初はかみ合っていた会話に段々と異変が現れはじめ、アキはたいして強くもないのにお酒を飲みたがるカヤナに呆れたまなざしを向ける。サゲツはお酒の紛い物と聞いていたけれど、目の前のカヤナは目をトロンとさせていた。
「ちょっと、洗い物」
席を立ち、台所へ向かう。お酒の匂いを払いたくて窓を開けると、思ったより冷たい風が入り込んできてアキは目を閉じた。しばらくそうしていると、なかなか戻らないアキを不審に思ったのか、シンが様子を見に来たらしい。
「な〜んでこんなに冷えてるの〜?」
そう言うのと同時に、後ろから伸びてきた腕がアキのお腹あたりに回される。
「ごめんなさい、すぐに戻ります」
この人も酔っているのだろうと、やんわりと腕を解こうとして、思ったよりしっかりと固定されていたそれに目を丸くする。見上げると、シンはニコリと笑った。
「大丈夫!カヤナちゃんご機嫌で眠っちゃったから」 「ええ!?全然大丈夫じゃないじゃないですか……運ばないと」 「そうだね〜。まあ、慌てることないよ」 「……シンさん、あの、……離してもらえませんか」
すっかり今の体勢で落ち着いてしまったシンに、困惑しながら言う。
「何言ってるの。今はアキちゃんを温め中」 「ええっと……?」
知らぬ間に身体の向きをかえられ、今度は正面から抱きすくめられた。
「ちょ、ちょっとシンさん!」
「カヤナちゃん自分も飲むけど、人にも飲ませるからさ〜。先に酔っちゃったらどうしようかと思ったよ」 「……シンさんは酔ってないんですか?」 「うん?」 「えっ……」
アキは思考を止め、一気に頬を熱くする。声を出せずに口をパクパクと動かすアキを見て、シンは楽しそうに笑った。
「カヤナちゃんの前で仲良くすると怒られるから、策を練ってみたんだけど、正解だったね」 「ね、って言われても、わからない、です……」
アキは次第に声を小さくし、委縮する。顔は見えなくとも、シンが肩を揺らしくすくすと笑っているのはわかっていた。
「そんなに可笑しいですか?」 「可笑しいって言うか可愛い」 「もう、からかわないで下さいっていつも言ってるじゃないですか」 「あはは〜」
顔を上げると、シンの顔が目前に迫っている。穏やかに微笑む彼を見ると何も言えなくなり、額に唇が触れるのを黙って受け入れるしかなかった。
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