ケバケバしい色をした陶器や魔除けの札を眺めながら、どうしてこんな任務が回ってきたのかとぼやく。魔術街の灯りは悪い光線でも浴びている気になってくるから嫌いだった。機嫌悪く歩くのを引き止めようと露店の店主たちがうるさく声をかけてくる。面倒くささが限界を超え、歩みの速度をさらに速めた所だった。
「お嬢さん、これは本当に効き目があるから」 「え、あの、私」
足を止めさせたのは聞き覚えのある声だ。思わずその肩に手を伸ばしていた。
「お前、何してるんだ?」 「アクトさん!」
振り返ったアキは表情を明るくし、しかしすぐにすがるような表情に変わっていく。こう言う顔を見るとつい一言文句を言いたくなってくる。
「恋愛成就の札?こんなモンが欲しいのか?」 「違います!捕まっちゃったの!」 「んなの無視すりゃいいじゃないか」 「そう簡単に言うけど……」
アキとのやりとりを黙って見ていた店主が、今度はこっちに標的を移してきた。
「兄さん、あんたにはこっちの短剣なんてどうだ?投げつけられた獣は一息で……」 「へえ。あんたで試してみるか?」
持たされた短剣を構えると、へらへらとしていた店主が途端に顔を引きつらせる。
「アクトさん!」
隣で非難の声をあげるアキを一瞥し、ため息をついた。
「行くぞ」
戸惑うアキを引っ張って路地を抜ける。数分歩いてようやくたどり着いたのはアキの店近くの商業区だ。
「で、何で一人なんだ?監視はどうした?」 「今日はタカミが監視の日だけど、多分留守番じゃないかな?」 「ないかな……って、あいつサボってるのか」 「でも、逃げようとすると分かるみたい」 「は?」
前に監視の目がないからと抜け出した時、簡単に追い付かれ捕まった事があるのだとアキが苦笑いした。
「だからこっちも、逃げられないって思っているし」 「だからって……まあ、他のやつがどうしようと関係ないか」 「あ、アクトさん」
再び前を行こうとするのをアキが止める。
「ありがとう。助かりました」 「あんなのいちいち相手にするの、お前くらいだぞ」 「相手にすると言うか、無理矢理……」 「放っておけばいいだろ」 「それも悪いかなって」
これ以上言っても無駄だ。足を動かそうとするのをアキがまた遮った。
「何だ」 「もう大丈夫だから」 「だから?」 「その、一人で平気だし……それに、手……」
言いにくそうに視線を逸らすのが不愉快で、逃がすまいと距離をつめる。アキは同じ分だけ後ずさりして、唐突に大きな声を出した。
「手、離して」
視線を落とすとアキの手をつかむ自分の手が目に入る。
「いいだろ、別に」 「ええ!?」 「お前、この辺でも前からまれてただろうが。店まで連れてってやるって言ってるんだ」 「気にしてくれてたの?」 「だから、そう言ってるだろ」
眉間に皺をよせて答えると、アキが噴き出して笑った。掴まれるままだった手に力を入れ、意志を持って握り返してくる。
「ありがとう」 「わかれば良い」
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