「おいしい林檎をもらったからパイを焼いてみたの。食べない?」
アクトがわずかに眉を反応させ視線を寄こす。一瞬好意的に見えたその目が今度はアキをとらえ、嫌味っぽい溜息を吐いた。無反応くらいなら心の準備ができていたけれど、あからさまに否定的な態度をとられ怯んでしまう。
「いつまで突っ立ってる気だ?」
偉そうに投げられた言葉に従いながら、頭の隅で理不尽だと思う。ここはアキの家なのにまるでアクトが主のようだ。紅茶を注ぎ差し出すと、アクトはそれには口をつけた。
「またアイツに会ったのか」 「クラトさんの事?ううん、会っていないけど」 「嘘つけ」
断定的な言い方に眉をひそめる。
「何月か前にアクトと一緒に会ったのが最後だよ」 「そんなの信じられるか。現に」
言いかけて、アクトはむっつりと押し黙った。続きを聞き出そうと顔を寄せると、アクトは目をそらすどころかこちらを睨んでくる。こちらも負けじとみつめ返していると、ふいに頭に重みが加わりアキは強制的に視線を他へ移された。抗議するように名前を呼ぶとアクトは苛々と舌打ちをする。アキがクラトと会っていないと言う事を少しは信用しはじめたようだ。
「だったら、なんでこんなもんが出てくる?」 「もらったの。たくさん」 「そんな都合のいい事あるか。やっぱりお前クラトに言われて」 「もう!私がクラトさんに言われてアクトの嫌いな食べ物をわざわざ用意したって言いたいの?」
躍起になるアキとは反対に、アクトは冷静だった。逆、と聞こえた気がする。一体何が逆なのか。アクトは問いかけようとするアキの視線に無視を決め込んでいる。
「好きだけど、クラトさんに言われて作ったと思ったから腹が立った……?」
どうやら正解のようだ。気が抜けて放心しそうになるのをこらえ、アキはアクトに詰め寄った。
「クラトさんの事ばっかり」 「何でお前が怒るんだ」 「真っ先にクラトさんの事考えるなんて。そんなにクラトさんの事が好きなの?」 「は……?」 「だってそうじゃない。私はアクトが喜んでくれたらいいと思いながら作ったのに」
あほらしいと言う顔で聞いていたアクトが途端に言葉に詰まる。
「……おい」
乱暴に腕を引かれると困惑した顔が目の前にあらわれた。いつも冷静な顔をしているアクトが背に回してきた腕は驚くほど熱い。そんな事で絆されてはいけないと思いながらも、押し付けられた唇に精一杯吊り上げていた眉が効果を無くしていった。
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