「アクトさん、今いいですか?」
アキがひょいと顔を出して監視部屋を覗く。こっちへやって来るのは見えていたから出かける知らせか何かだとは思っていたが。
「ああ。いいぜ」
そもそも、今の任務はアキの監視で、他の仕事に手をとられている訳でもない。連れてこられたのは先刻まで小屋から眺めていた家の中で、鍛冶場にはまだ熱気が漂っていた。机上には組み立てる前の剣格や剣の持ち手となる剣柄などが並んでいる。
「それ、俺の注文か?」 「はい。そうなんですけど」
アキは頷き、同じ模様の剣柄をアクトへ差し出してきた。手にとって持ち比べるように言う。
「どっちが良いです?」
はじめは違いに気がつかなかったが、改めて持ち直すと少し握り心地が違った。
「こっちだな」
後に手にした方だと答えると、アキが瞳を輝かせて、やったと言う顔をする。
「なんだよ。どうかしたのか?」 「ふふふ」
にやけた顔のまま剣柄を返すよう手のひらを見せるアキに対して、アクトは剣柄をアキの手が届かない高さへ持ち上げて応えた。
「返して下さい」 「聞いてるだろ?質問に答えたら返してやるよ」 「大したことじゃないです」
アキはそう言って渋ったものの、アクトの追求に観念して肩をすくめる。
「本当に大したことじゃないんですよ」 「良いから言えって」 「……持ち手の太さを、一般的なサイズから少しだけ削ってみたんです。アクトさん、指が細いからその方が持ちやすいんじゃないかな、なんて」 「指が細い?」 「スラッとしてるって事を言いたかったんですよ。決してひ弱っぽいとかそう言う意味じゃありませんからね!怒らないで下さいよ?」
何を警戒しているのか、不安げに見上げてくるアキを軽く小突いた。
「そんな事でいちいち怒るかよ。……へえ。こう言う事もできるのか」
「最初はそんな余裕なかったんですけどね。せっかく使う人が身近にいるんだし、喜んでもらえる物を作りたいじゃないですか」
アキははにかみながら言った後、まだまだですけどね、と付け足す。
「お前、カヌチ目指してるのか?」 「憧れではありますけど、なれるとしてもずっと先の事って感じで……」 「ふーん。……俺の為だけに作られる剣。カヌチか……悪くないな」 「え?アクトさん、カヌチのあてがあるんですか?」
「まさか。鍛冶師の知り合いなんてそう何人もいない。鍛冶師の方が相手を選べる分、立場が上だろ」 「相手を、選べる……」
アクトの言葉を受け、真剣に考え込み出すアキに苦笑いした。
「何だよ。もう契約相手の心配か?ま、とっととクヌヒが見つかっちまった時は、俺が契約してやるよ」 「ど、どうしてアクトさんと」 「どうしてって。言っとくが俺はそこらの剣士より格段に強いぞ」 「それは何となくわかりますけど……」 「ならいいじゃねーか。まあ、まずはコレな」
剣柄を机に置いてアキを見る。アキがはい、と頷いて作業の続きに取り掛かったので、アクトは部屋に戻り黙って石の打たれる音を聴いていた。
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