草むらにシートをひきアクトを呼び寄せると、アキは料理の入った弁当箱を並べた。全て用意が整ったところで、隣のアクトに合図をする。
「はい、どうぞ」
アクトはアキの顔をちらりと見ると、料理に手を伸ばした。次々に食べ物が口へ運ばれて行く。アキはそれを横目でうかがいながら、自分も料理を口にした。着々と容器が空になっていく様を眺めながら、おそらくアクトの嫌いな味ではなかったのだろうと推測をするが、いつもの事ながらアクト自身から感想がこぼれることはなかった。
「なんだよ」
いつの間にかアクトを見つめてしまっていたらしい。アキは急に目が合った事に驚き頬を熱くしながらなんでもないと首を振る。アクトはいぶかしげにアキの顔をのぞいた後、料理へと視線を戻した。
「いつもこう言うことしてるのか?」 「お弁当のことですか?それなら、していますけど」 「ふーん」
アクトもそれは知っているはずだったが、何か不満そうな様子を不思議に思いながらアキは答えを続ける。
「こう言うところで節約しないといけませんから」 「それなら自分の分だけ用意すりゃいいのに」
「それはそうですけど……料理は好きだし、せっかくだから一緒に食べたいと思ったんです。迷惑でしたか?」 「いや」
これは、弁当を作るなと言われているのだろうか。料理は得意分野だっただけに、アキはアクトの反応に肩を落とした。
「もう作らない方が良いですか」 「そうは言ってないだろ」 「言ってると思います……じゃなきゃ何なんですか……」
アキがぽつりとこぼす。アクトは少し焦った顔をして、ため息をついた。
「他のやつにも作ってんのかって聞いただけだ。別に俺に作るななんて言ってない」 「…………はあ」
しまらない相槌を打ちながら、アクトの言葉を聞く。少しして顔を上げると、アキを見ていたらしいアクトと目が合った。
「人の話聞いてるか?」 「多分、聞いてました」 「じゃ、わかったな」
「えーっと……アクトさんには作っていいけど、他の人には作っちゃだめってことですか?」
混乱した頭でなんとか答える。アクトの顔がいつもより赤い事に気がついて声をもらすと、すぐに顔をそむけられてしまった。
「いちいち騒ぐな」 「さ、騒いでませんってば。でも一応、考えて、みます」
とぎれとぎれにそう言うと、アクトがそむけていた顔をアキに寄せ、にやりと口の端をあげる。
「考えてみます。じゃなくて、作りません。だろ?」
すぐ近くにあるアクトの自信に満ちた表情に、アキは目を離すことができない。ただそれを見つめたまま、ゆっくりと首が縦に動くのを感じていた。
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